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先輩の一人がこちらに気づき大きく手を振っている。
瑠里は咄嗟にその方向に走り思わず目で追った瞬間、腕が激痛に襲われブラウスには血が滲んでいた。
「えぇっ?いった、痛すぎるんだけど――っ!」
目の前には刃物を持つイタチ人間が居たが、犯人達と違いカジュアルな服装だし通行人に紛れて自然に切り付けてきたようだ。
一瞬だったし先輩方に気を取られた隙だったので、稲膜を張るのが遅れたのもあるが、とにかく腕が熱くて痛い。
先輩達は悲鳴をあげ、瑠里は血を見て気分が悪くなったのかその場で蹲っている。
腕を押さえ痛みで顔を歪めていると、男は勝ち誇ったような表情で近づいて来た。
「あそこの事務員だな?仲間が出て来ないがどういう事だ」
制服を見て人質に決めたらしく、追加で二人のイタチ人間が近寄ってきたが、血の付いた袖元を見ると痛みが倍増した気がする。
「瑠里……助けて、血が出てきたぁ、本気で痛いし縫うレベルかも」
血の気が引くような感覚もあり、大きな声が出せないのに、肝心な時に忍者探偵は溝に向かって嘔吐している。
イザリ屋の薬を塗ればすぐに治りそうだが、部屋のリュックの中だし、痛みで腕を押さえながら立っているのがやっとだ。
ナイフを持った犯人が寄って来ると、後ろに下がり、この場をどう乗り切るかを必死に考えようとした。
するとボグッと鈍い音がし、前に居た筈のイタチ人間が数メートル吹き飛び、直後灰になって消えた。
残りの二人も足蹴りで飛ばされ、高く舞い上がったかと思うと灰になり、三人目のイタチの時ようやくその人の顔が見えた。
「百合も祭りに来てたのか?こんなカスに何を手こずってる、般若が形無しだぞ」
「きゅ……九黎さん、すみません詰めが甘かったようで」
こんな場所でワイルドチームの一人……いや、銀山犬のトップの右腕に会うとは思ってもいなかったが、片手をポケットに突っ込み足だけで敵を蹴散らす姿は流石だった。
「イタチカステラを毎年楽しみにしててな……とりあえず怪我を見てみよう」
もうヨロついていたが九黎さんは気にする事なく、身体を支えながら袖口をめくっている。
知り合いというか連れの男性二人もガタイがいいので、恐らく銀山犬だと思われるが袋を預けていたのでカステラに違いなかった。
「こんなかすり傷でフラつくとは……舐めときゃ治るだろ」
「でもすっごく痛いんですよ?血もついてるし病院で縫うとか麻酔の注射が絶対痛いですし、貧乏で丈夫に育ったからこんな怪我初めてで」
仕事とはいえナイフで切りつけられ出血を伴う怪我を負ったのに、共感してくれる者は誰もおらず、かすり傷で片づけられ納得がいかなかった。
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