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「血がブラウスに染み込む位だし、痛さからいってきっと大怪我だとおも……」
「こいつらは気配を消す能力が長けてたようだな、しかし……こちら側のエリアでも色々チカラを吸収してるらしい」
「――えっ?!」
もっと怪我の心配をしてくれと思ったが、興味は傷口より他の話に切り替わっていて頭の整理が間に合わない。
おまけに九黎が蹴り上げ飛んだ後、敵は灰になったのでウチの誰かがいる筈なのに『大丈夫か』の一言もないのにもイラついてきた。
「俺らはここに三日位は滞在するつもりだ、何かあれば協力するしもし傷が痛むならいい薬もあるが来るか?」
どんだけカステラ食べたいんだと思ったが、やっと怪我の事に触れてくれたので腕を押さえつつ口を開こうとした。
「ご協力有難うございます、大変助かり感謝していますが、これ以上ご迷惑はおかけ出来ませんので祭りをお楽しみ下さい」
何処からともなく現れた死神……いや、滋さんは感情が読み取れない表情で割って入ってきたが、九黎とワイルドな仲間達は守るように囲んでくれていた。
「百合……、本当にこいつは仲間なのか?」
「先輩です、いつもピンチの後に登場する冷酷非道な奴らです。後輩が大怪我をしても心配より修行が足りんと逆切れするタイプですよ、今日はまだ早く現れた方です」
「……そうか、でもヒクイドリのような目の色をしてるし、いい経験になったんじゃないか」
聞き返そうとした直後に少し離れた場所から『バンッ・バンッ』と銃声のような音が聞こえたので、条件反射で全員が走っていた。
イザリ屋の靴ではないのでいつもよりスピードは劣るが、九黎の連れの兄ちゃんが支えてくれている。
すぐに現場に着くと車で逃走した後だったようで、その場に撃たれた者が倒れているのが見えた。
運んでくれた礼をいい、すぐにビルの上に舞い上がると犯人らしき車を目で追った。
急スピードで走る車を見つけたので後ろを向くと、滋さんは銃を用意して待っていた。
「後は任せて、現場に戻っていいよ」
「白のワゴン車です、宜しくお願いします」
目立たない場所から舞い降りたが、誰も怪我の心配をしてくれないまま終わろうとしている空気に納得いかない。
こんな怪我をしたのに鈍くさい程度で片づけられ、病院に行こうと声をかけてくれる者もおらず、まだ貧乏なら何事も『気のせい』で済まされても分かるが職場は皆金持ちだ。
薬が優秀なのも分かっているし塗ればすぐに治るのも承知しているが、もう少し優しさが欲しいと思いつつ血の付いたブラウスを見た。
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