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イタチクラブ
そういえば痛みで血の気が引く感じだったのに、ダッシュしてしまい追加で空も飛んだとなると、傷口がどうなっているか不安になる。
時間が経ちマシになってきたのか先程より楽になってきたが、実際は壊死してたらと思うと様子を見た方が良さそうだ。
歩きながら傷口に触れないよう、少しずつ袖口を折り返し緊張して作業を続ける。
患部の少し上まで続けたところで、逸らしていた顔をそっと向けると、意味が分からず立ち止まった。
「えっ、えぇ――っ、傷口何処いったんじゃい!」
大きな声を出した為通行人に変な顔をされてしまい歩き始めたが、あれだけ自分を苦しめていた暴れん坊の痕跡が全くないのはおかしい。
実は九黎が傷口を見た時に薬を塗ってくれたのではないか、もしくは死神がどさくさに紛れてつけたと考えても、いまいちピンとこない。
「追跡終わったのか?」
九黎達はビルの下で待ってくれていたらしく、後を追いかけ呼びかけてくれた。
「はい……でも大変なんです、傷口がなくなって……」
「驚くことはない。ヒクイドリのチカラの回復力もあるが、イタチ関連でチカラを貰ってるんだと思っていた。元々傷も小さかったし、あれ程度なら薬を塗るまでもないだろう」
痛みは止まって傷は無くなったものの、これがお得なのか、更に化け物に拍車がかかったのか分からないまま歩いていた。
「そんな顔をしなくてもまだ祭の日数もあるし、イタチカステラはなくならんぞ?」
『心配なのそこじゃねーよ!』
怖いのでツッコミは心の中だが脈拍がどんどん上がっていき、そこはかとなく不安が押し寄せていたが、目の前のレンジャーに言ったところで分かって貰えるとは思えなかった。
「いつの間にか治安が悪くなったんだな、しかし……イタチカステラの販売が中止になるようなら皆始末という方法もある。何か協力出来る事があれば連絡をくれ」
「は……はい、有難うございます。せっかく休暇で来られてるみたいだし九黎さん達は祭りを楽しんで下さい」
失くすと殺されそうなので、貰った連絡先はすぐにスマホに登録し、元の場所に戻ったが何事もなかったように通行人が数人いるだけだった。
事務所に戻ると縛って集めた強盗の姿もなく、先輩達は弁当を囲んでランチタイムを楽しんでるようだ。
「あっ、百合おかえりなさい」
「アンタもこれ食べて、お疲れ様~」
机の上に食べ物が何種類が置かれていたが、瑠里はソファで横になっていたのかタオルケットが隣に丸めてある。
姉は刃物で切り付けられ大変な目に合ったのに、それをただ目撃し気分が悪くなっただけ妹の方が大げさに扱われていて若干イラついた。
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