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「瑠里、ちょっとしっかりしてよ~」
「気分はマシになったよ、他の奴らは先に帰ったけど姉思いだから待つ事にした」
直後に何かを頬張る姿を見ると、食べ物に釣られたとしか考えられないが、先輩達の前で怒るのも空気を読んでないので苦笑いをしておいた。
「こんな田舎街でも強盗って入るんだね~」
「百合のシーンはドラマみたいだったよ」
事件が解決するとおばさん達は恐怖よりも興奮が上回り、自分が現場にいたという話で盛り上がっている。
少しすると社長達も戻って来たが、先輩達は涙ぐみながら報告をしていて、日常ではない大きな出来事に感情が入り混ざってるようだった。
袖口を見て真っ先に怪我の心配をしてくれる社長に涙が出そうになったが、血の跡はあっても怪我はないので大丈夫だと引きつり笑いをした。
午後からはお休みにしますと言われ、おばさん達は昼を食べ終わったら帰る事になりそうだが私達は奥の部屋に案内された。
「実はウチはちょっとした『秘密』を預かってましてね、被害に遭わなくて本当に助かりました」
「いえっ、仕事ですし先輩達に怪我がなくて何よりです」
今回の件でイタチの世界で頻発している強盗の恐ろしさは分かったが、従業員達が辞めたり店をたたむと街の人も困るし、強盗の尻尾を掴まないと不安が消えないと持ち出された。
「今回の祭りの主催者に入っていて、毎年他の世界から多くの観光客で賑わうので中止にも出来ない。なので引き続きイザリ屋さんに見回りを頼みたいんですが……」
「多分その手筈だと思いますが、帰ったら聞いておきます」
部屋を出てリュックを持つとまだ先輩達は事務所に居て、綺麗な紙袋に入った箱を渡してくれた。
九黎にも礼が言いたかったらしく、もし会う事があるなら渡してもらい、機会がないなら食べて欲しいと託された。
「すみません、仕事で来たのに土産まで頂いてしまって」
箱の包みには可愛いイタチのイラストが描いてあり、きっと先輩達は機転を利かせて買いに走ってくれたんだと申し訳ない気持ちになる。
「心配しなくてもいいよ、菓子折りは数種類用意してあるから」
そう聞いて少し安心したが、てっきり饅頭だと決めつけていたのに、イタチカステラの詰め合わせと聞き驚いた。
祭りの間は屋台で出来たてを食べれるが、あまりにも人気すぎて他の時期も食べたいと要望があり、お取り寄せ専門のイタチカステラが誕生したようだ。
その場で食べる品とは粉の配合も変わっており、フレーバーも取り寄せ専門しかないのでツウの間では人気の商品らしい。
「イタチの世界では知名度高いけど、でも喜ばれるから菓子折りにいいんだよね」
「他の世界の人だと珍しいと思うから、土産に渡そうと思って」
「有難うございます、渡せるように手配してもらう様伝えます」
休みを取り現地に来る九黎にコレを渡せばきっと喜ぶし、おばさん達の気持ちも伝わるので、木村さんに任せようと思い事務所を後にした。
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