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扉を潜りシャワーをして戻ったが、木村さんにいつものスマイルはなく盗賊のお頭並みの顔つきなので緊張が走る。
「百合は検査に行こうか、瑠里も念の為診ておこうね」
「御意、茜……お頭の後に続きな」
心では思ってはいたが口に出す辺り心臓が強いなりきり忍者探偵だが、怪我については自分でも不安だったのでしっかり検査をして貰いたい。
イザリ屋でOKサインが出たら絶対的に安心なので、早く太鼓判を押して貰いたいが、途中問診も入りいつもより少し長引いていた。
指示された部屋に入るとやっとコーヒータイムだが、先に終わった瑠里はサンドウィッチを美味しそうに頬張っている。
TBカフェなので買いに行ったか差し入れかは分からないが、同じく美味しく頂いているとドアが開いた扉から、丸見えなのにも関わらず隙間から見ている風の社長と目が合った。
「……あげませんよ?物欲しそうな顔されても、こっちだって負傷して血が足りないんで」
「いや心配してるの気づいてくれる?パンなら売る程あるし、どうしても欲しい時は買いに行くから」
キツネ……いや社長はテーブルを挟んで正面に座り、両手で頬杖をついてこちらをガン見しているのがかなりキモイ。
瑠里はハンバーグサンドを食べていたが、こちらはお気に入りのカボチャサンドの甘みとマヨソースで一息つきたいのに目障り感が半端ない。
「検査の結果聞いたら帰るんで、早く出て行って貰えませんか?こっちはね、振り返れば悪夢を見た時位から疲れが溜まってるんですよ、焼き肉の回数だって少ないし」
「瑠里さん……後でお食事券あげるからそんなカリカリしないで?で、ユリリンがナイフで刺されたなんて聞いたら飛んで来るに決まってるじゃん」
「手ぶらで見舞いですか?花束は不要ですがフルーツ添えて下さい、メロンがいいです」
最近は多忙で今は偶然居合わせたようだが、木村さんから報告を受け、すぐに来てくれたみたいだ。
現場で滋さんに遭遇したが怪我の心配もされなかったので、親族で一番の死神が心配してくれたのには驚いた。
社長が気になっているのはケガの度合いというよりも、傷が無くなっているという事らしく、もう一度刺された時の状況を詳しく聞かれた。
「うぅむ……気づくのが少し遅れたとはいえ、条件反射で稲膜を腕周りにだけ張っていたと思えるが、血が出ているという事はやはりちいっと切られておるな」
「皆でかすり傷扱いだけど、ブラウスが赤くなる位だよ?子供がそんな怪我したら絶対に病院に行くレベルでしょ。しかもすっごく痛かったんです!」
その場に九黎もいて助けて貰った事や、ヒクイドリのチカラもある的な話をしていたと全部しっかりと伝えておいた。
イタチの世界のナイフも少し特殊なようで、殺しに使うならトップクラスらしく刺されてかすり傷だったのは不思議なようだ。
私の場合稲膜を張ってダメージが減っていたにせよ、鎌イタチの世界のチカラを持っている事と、ヒクイドリのパワーを少し吸収しているのは考えられるらしい。
ヒクイドリは特に『火』のチカラを強く持つ者に反応を示すようで、特殊エリアで金火稲を使える私なら納得出来ると言われた。
ただ今回は妖怪……いや、特殊班のエリアではないので、恐らく鎌イタチとヒクイドリが合わさった物だと考えると自然なようだ。
「でも芭流は鎌イタチで、今回はイタチですよね?ちょっと種類が違うような……」
「イタチの世界で一番なのはやはり鎌イタチなんでな、そのチカラを持っておるなら不思議ではない。ところで……傷口は直後に見て確認したんかの?」
「いえ、血の量と痛さからして、縫うレベルと判断し直接は見てません」
社長は思案顔をしていたが、サンドウィッチは食べ終わったしそろそろ帰りたいと思っていると木村さんが笑顔で入って来た。
盆の上にはサクランボが凛々しい光沢を放ち、高そうな空気を醸し出している。
「甘くて美味しいからデザートにどうぞ。社長から貰ったから」
差し入れで高級サクランボのチョイスは流石金持ちだと思ったが、何となく話が長引くのでは違う不安も少し過っていた。
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