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「強盗共は着実に減っておるが、まだ数が多くて般若……いや、猫の手も借りたい位じゃ。そこで明日の昼間もイタチの世界に入って貰いたいが……」
ここで言葉を切り、いつものように溜めに入っているが、私達は今がチャンスとばかりにサクランボを頬張っていた。
木村さんは検査結果を伝えに来たと思っていたが、勢いよく手を伸ばし甘くて美味しい高級フルーツを食べている。
「ちょっ、みんな少し落ち着いてくれる?社長はまだ話中だよ?ってか、キムまで無言でサクランボに夢中じゃん」
「勿体ぶらないで早く言って貰えます?食べながらでも耳は聞こえてますし、仕事終わりで疲れてるんですけど」
皿に盛られたフルーツがほぼ無くなり、瑠里がイラついた口調に変わると、芭流が早く顔を見せに来いと催促が入ってるらしい。
鎌イタチの世界にはゆっくりと行きたいので休みの日が理想だが、まーちゃんも礼を言いたいらしく、明日の仕事終わりにでも行ってみたらと提案された。
通常なら今夜勤務になるが、明日の昼間に延びて睡眠時間が長くとれるし、まーちゃんにも逢いたいので承諾した。
イタチカステラは手土産用に渡したいので、九黎に渡す分と芭流達の分以外は皆さんでどうぞと、お得意の『便乗お裾分け』で少しでもお返ししたいという姿勢を見せておいた。
サクランボを手土産に貰ったので、出迎えたドラム缶は喜びの舞を踊っていたが、王子達も周りをジャンプし何となくフォーメーションが出来ている。
「ちょっとぉ、また変な芸教えるの止めてよ?王子達は高貴なんだからそんな貧乏人の舞なんて踊らせないで」
「違うわよ~、ダンスで喜びを表現すると『可愛い子ねぇ、もう一つあげちゃおっかなぁ』という気持ちになるでしょ?言葉が話せない我が子に知恵を伝授してるんだよ」
「だからその卑しい考え方が貧乏だって言ってるの!」
いつも不思議に思うが、本来は獰猛で人に懐かない山金犬に元の姿は大蛇の特殊過ぎる二匹が共存し、芸まで教えてる母はどういう能力があるのか知りたい位だ。
母の前では決して素の姿を見せない王子の役者魂もあるとは思うが、それにしても芸を覚えるというより、むしろ本人達もノリノリで参加している状況が凄い。
三人の舞が終わり苦笑いで拍手をしていると、サクランボを洗った瑠里はドラム缶の前に差し出し自分の部屋に戻った。
夕食以外はほぼ寝て過ごしたが、母に起こされて仕方なく身体を起こしリビングに入る。
仕事前のむすびがテーブルに置かれているので支度を始めるが、何となく身体がダルいので睡眠が足りないのかもしれない。
コーヒーを飲んでいると瑠里もボサボサの頭で起きてきたが、母も見舞いに向かうようで粉を叩いていた。
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