イタチクラブ

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「じゃあママは出かけるけど、王子達の事宜しくね」 玄関前で何度も手を振り、ドアを閉める直前も隙間から覗く母はウザかったが、王子達の尻尾は動いているので嬉しいらしい。 おにぎりを食べ早めに家を出ると、いつものように受付には木村さんが笑顔で立っていた。 着替えを済ませ指示された部屋に入ると、コーヒーを飲むリーダーの姿が見えた。 「おうお疲れ、今日は同じ現場だな」 「イタチクラブの方ですよね、初出勤なんで緊張してますが宜しくお願いします」 瑠里の挨拶に何か腹立つと言っていたが、澄ました顔でコーヒーを口にしていた。 妹は事務員よりイタチクラブの方が気分的にはラクなようで、早速リーダーに流れの説明を質問している。 リスト通りに訪問して中に入って話をした後、様子を見て退散するらしいが、既に何度が強盗と鉢合わせしていると聞き顔を上げた。 「思い出した、私犯人に腕刺されてトラウマになったんだった。今日も少し体がダルいし、イタチクラブの事務担当に変えて貰おうかな」 「そんな仕事はない!イザリ屋の薬塗れば跡形もなくなるだろ」 「そこには触れてあげなさんなダンナ、般若は薬を塗らず傷を自己治癒する化け物度がトラウマだって言ってんだよ」 そんな事は全く言ってないし墓穴を掘った気がするが、リーダーは引きつった顔で木村さんに診て貰ったのかと念押しで聞くので、妖怪エリアの任務から掻い摘んで話す羽目になった。 「ヒクイドリって、とんでもなく凄いパワーで本気の化け物なんだろ?そんなチカラを吸収したら……」 「それだけではないわ、ワイルドチームの相方銀山犬のチカラも預かったとなると、今後真打の般若がお目見えするかも知れぬ」 「やかましいーわ!結局悪口やろが!」 タイミングよく木村さんが入って来たので、今までの話はなかったように姿勢を正したが、まずカップに入れたコーヒーを飲むように言われ不思議に思ったが口にした。 「ごめんねぇ、昨日サクランボが美味しくて伝えるの忘れてたんだけど、検査の結果はチカラの吸収途中で不安定な状態だったの」 木村さんによると恐らくイタチに刺され急激に引き出されたが全部ではないので、そのせいで体調にも少し影響されるかもしれないと先手を取り、ブレンドしたコーヒーが用意されたようだ。 流石だと思うがそんな事を聞くと、今日は仕事を休んだ方がいいのではないかと別の心配も浮かんでくる。 こんな時にまた襲われ、あの世に送られたらどうしようと考えると胃が痛む……ような気もする。 「心配しなくても大丈夫、既に目はヒクイドリの一部を吸収してるんでしょ?例えたら便秘みたいなものよぉ、百合は現場の方がスッキリ解消するわ」 「いや、今までチカラの取り込むのに『途中』とかなかったですよね?容量オーバーじゃないんですか、ちょっと返したいんですけど」 容量は無限にあるから問題ないし、今回はタイミングのせいと軽くあしらわれたが、コーヒーを飲み終わるとダルさもなくなっているのが不思議だった。
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