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先程と同じようにソファに案内されお茶を出されたが、事務所には客がおらず全員普通に働いている。
なのに何か違うような気がして蜘蛛の糸を手繰るように神経を注ぐと、油断していると見逃がしそうな気配を感じる気がする。
こいつらは気配を消す能力に長けていると九黎も言っていたし、刺された時も気づかなかったので同じ過ちを犯したくはない。
リーダーは変わらず事務員と話をしているが、瑠里はトイレを借りたいと立ち上がったのでついて行く事にした。
「いや、茜はここで待機じゃ。気になってゆっくり座ってもおれん」
『そういう問題じゃねーだろ、心配してんだよ!』
目で意思表示をしたがスルーされ、指示された場所にスタスタ歩くので周囲をさりげなくもう一度みておく。
電卓を叩いてるリズムとパソコンを触ってるボタンの音、従業員達の息遣いまで聞こえてきそうだが、何となく落ち着かない。
目の前の電話が鳴った時、少しためらう感じが引っかかり『掛け直す』とすぐ切ってる姿で確信に変わっていく。
この部屋には他の者が居て従業員達は平静を装うよう指示をされ、精神的にダメージを受けている状態だ。
私達がタイミング悪く入って来て、何らかの理由で帰るのを待ってから襲う作戦だと思われる。
そこまでして穏便に、でも時間をかけたいという事はここは本命の場所かもしれない。
お金目的ではなく秘密を盗みたい場所だとしたら、成功したあかつきには全員殺される可能性が高い。
瑠里は何かを感じてくれてそうだが、もしかするとリーダーの姿を敵が見てこの状態なのか、もしくはイタチクラブの巡回はすぐ帰ると思ってこの展開になのかは不明だ。
どちらにしても犯人達は時間をかけてこの場所から何かを盗みたいのはハッキリしている。
「そういえば、ここってイタチカステラのお取り寄せってありますか?」
「えっ?は、はい……お客様の手土産用に幾つかの用意がありますが」
やはり前回潜入した事務所同様、菓子折りの用意はあるようだが話をしていた事務員さんもリーダーも不思議そうな顔でこちらを見ている。
「先輩はそろそろ次に向かって下さい、後程連絡入れます。私はもう一人のトイレを待つ間に……菓子折りについて聞いておきたいので」
「……分かった、ではこの辺で失礼します」
顔つきで何かを察したリーダーは質問もせず事務所を後にし、私はカステラの話を振って、喉が渇いたとお茶を催促し長居しますよアピールしておいた。
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