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瑠里達が戻って来ると、リーダーがカステラの代金を払って事務所を後にし、外に出た所でバッグを渡された。
「これに着替えてお前らは街中を巡回に交代だ、夕方に本部で合流する」
「えっ、大丈夫なんですか?外って危険じゃないんですか、だって私刺された……」
「次は抜かるな、俺らは今から本部に行って片づける事があるが……そのメンバーに入りたいならそれでもいいぞ」
姉妹で見回り頑張りますと即答すると、リーダーは本部に向かい私達は近所のコンビニのトイレで着替えを済ませ街中を歩く事にした。
「さっき事務所でイタチカステラの一番人気の屋台があるって聞いたんだよ」
「いいね、そこに行こう……じゃが、気を抜くでないぞ。盗賊の外で待つチームは気配を消す達人らが多いからな」
カットソーにデニム姿でも、すぐに忍者探偵口調になりきる妹だが、言ってることは間違ってないので気合いが入る。
まだ一グループしか捕まえてないし、同じ時間帯に近所の事務所に入ってる可能性もゼロではない。
先程の強盗の待機チームはリーダー達で確保し、連れて行かれたみたいだが、その後は執行されているのかもしれない。
屋台周辺には観光客が集まっていてイタチカステラの人気に圧倒されるが、さっき少し食べたので、小腹を空かせる為に路地裏の方も回ってから列に並ぶ事にした。
日当たりが悪い細い道を渡り隣のビルの谷間に差し掛かった辺りで、地味な二人組の男性がイタチ人間に因縁をつけられてるように見えた。
「あれ……は強盗の仲間じゃないね」
「ただチンピラに絡まれてる光景だね」
強盗でないなら私達には関係ないし、チンピライタチはほろ酔いなのもあり、相手にすると面倒そうだ。
二人で踵を返すと、酔っ払いの怒鳴り声が聞こえビクッと肩が揺れチラ見した。
「殴られるか金出すかはっきりしろ!」
嫌な二択を迫られたうえに男性達は壁に押し付けられ、違う方向の壁ドンにも見える。
「あ~あぁ、完全にビビってるよあの人達、私らでも怖いわ」
目立たない角度で見ていると、酔った男のイライラが頂点に達したのか、殴りかかっていた。
殴る蹴るとアクションが大きくなっていて、殺されそうなら手助けした方がいいかと様子を見ていると、あまり手数が増える事無く暴言を吐きながら去って行った。
男性二人は顔や腕を押さえていたので、念の為前を通りかかった風で歩くと、鼻血が出ていたのでリュックからポケットティッシュを出し無言で渡した。
「あ、すいません……有難うございます」
傷は痛そうだがしゃべる事は出来るし、もう一人も何とか歩けそうなので、長居すると瑠里の気分が悪くなりそうだしお辞儀をして去る事にした。
「ティッシュは有難いけど、無言じゃなく『大丈夫ですかぁ』とか可愛い声を添えると女性らしいよね」
「――はぁ?」
ティッシュを恵んで貰ったのに何という態度だと振り向くと、眼鏡をかけたシャツにデニム姿の男性が立ち上がっていた。
「えっ、もしかしてだけど……八雲さん?」
「分かってくれたぁ?オーラ消してちょいキモ君にも変装出来るんだよ」
雰囲気は全く違ったし、服装も仕草もいつもの八雲さんとは真逆のタイプすぎて気づかなかった。
「やくタン……ただのチャライケメンかと思っておったが、やりよるのぅ、任務以外の余計な争いは避けショボい男を演じておったとは……」
「潜入のプロだから朝飯前だよ、でも向こうの方が被害大きいけどね、殴った手は骨折してるし」
見た目で因縁をつけると大変な目に合うといい教訓になったが、私達がそれをやる事は一生ない。
「本当はこのままダブルデートでもしたいんだけど、まだ仕事中だから行くね」
よく見ると隣にいるのは蓮さんで、彼は普段から無言なので存在感は薄いが、同じくイケてる要素は消し三浪してバーチャルな世界の子と恋愛してると言われても頷けた。
去っていく後ろ姿を見ると、珍しく先輩に尊敬の気持ちが出て、自分もああいう芸当が出来るようになりたいと思えた。
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