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子供が路地の先でイタチ人間にぶつかり、そのまま腕を捕まえられ怒鳴られていた。
「小汚いクソガキが!俺の服が汚れるだろうが、お前なんかがそこのカステラを買える訳ないし盗んで来たんだろ」
「それ以外にも戦利品があるなら渡せ」
チンピラ二人組に逆に絡まれ顔を殴られている最中だったが、文句をいうタイミングを逃したような気がして立ち止まった。
「ちょっと待ってもらおうか、そのガキは私らのカステラの盗人なんだよ、まず奪った品を返して頂こう」
隣の忍者は全く関係なしに声をかけ、第三のチンピラの如くカステラのみに焦点を当てている。
ただ狐の世界でのガキと違っているのは服装といい素振りといい、本当に貧しい家の子供だと分かるし、口に出さなくても家族の誰かの為に奪ったんだと分かる。
通常なら逃げきれるし、観光客からも奪ってるんだとしたらもっと肉づきが良くてもいいのに、ガリガリなのが物語っている。
その姿を見るとあまり強く言えなくなり、自分達の学校の帰り道を思い出してしまいそうだ。
お腹が空き過ぎて野生のナツメやイチジクを食べながら帰り、昼の質素な弁当分を補っていた。
違うルートにもないかと探しながら山道に逸れる事も多々あり、叱られた経験ある。
「俺はぶつかって来られて怪我をしてるんだ、先にこっちの医者代を回収させてもらう」
「ガキを殴った時点でチャラであろう、後はこちらにカステラと共に引き渡して貰おう」
盗人の顔からは血が少し出ているが、カステラの袋は腕で守っているし、通常の子供のように泣きわめく事もない。
危険と隣合わせの生活をしてきたんだと思うが、そういう暮らしだといずれ悪い大人等に殺されそうだし、残された家族はどうするんだと我が身に置き換えてしまう。
「順番ではこちらが先なんだよ、ガタガタ言わずにガキを置いて消えろ……って言ってるんです」
先程の八雲さん達を見習い穏便に済ませようとしたが、貧乏育ちのガラの悪さが出て後半を敬語でカバーする。
「そ、そうだよ、般若もこう仰ってるんだ。何度も言わせると……」
「うるさいっ!ガキの代わりにお前らが金を払えば……」
「あっ、やっぱり百合だぁ、百合――っ!」
逆光で一瞬誰か分からなかったが、シルエットで大体の想像はつく。
「もしかしてサン?い……一段と大きくて逞しくなったね」
熊の世界の裏雅の里に泊まった時にお世話になったジンの息子だが、愛くるしい仕草とは違ってガタイはかなりいい。
好奇心旺盛なのでこちらに来そうな勢いだが、今はチンピラに絡まれてる最中なので騒ぎが大きくなりそうで怖い。
「ちょっと今取り込み中だから、お父さんの所に戻っててぇ、後で顔出すから」
手を振って合図を送ったつもりだったが、チンピラに目を戻すと、ジンが二人の腕を捻り捕らえていた。
「久々だなぁ……百合もイタチカステラ目当てか?元気そうで何よりだ」
『化け物に限ってどんだけイタチカステラ好きやねん!』
九黎も祭りのカステラの為に休暇を取って来ているみたいだし、熊人間のジン達……はまだ子供のサンがいるので何となく分かる。
でもチンピラは居ないかの如く話をする化け物の姿は、九黎の時のデジャブを見ているみたいだ。
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