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「私達は仕事で……でもイタチカステラをその子供に盗まれて、追って来たらチンピラに絡まれしまって」
「盗んだのってこいつ?」
サンは逃げようとした盗人の腕を捕まえていて、イタチはかなり素早いがジンは国を守る仕事をしているプロだし、息子は特殊な格闘技の学校に通う化け物予備軍だ。
見たまんま熊のシルエットなので本気で怖いし、瑠里はまだ慣れないようで若干距離を置いている。
ジンがチンピラの耳元で何か囁くと、猛ダッシュで走って逃げて行き、残された盗人も泣きそうな顔をしていた。
私だって熊人間に睨まれたら、恐怖で涙どころの騒ぎではないので気持ちはよく分かる。
「か、返しますんで許して下さい」
「あんた……今回は見逃されても生活の為に又やるんだろ?もし殺されでもしたら誰が残った家族守るんだよ」
「そうじゃとも、私らだって家計に為に仕事してる貧乏人だけど、働き頭は病気や事故で死ねないから気をつけておる」
事務員で入った場所に求人の貼り紙がしてあったので、話を聞きに行ってみてはと一応勧め、今回はなりきり忍者もカステラは譲る事にして帰って貰った。
サンはカステラを沢山持っていて、一つ渡してくれようとしたが、彼ならきっと全部食べれると分かるので遠慮しておいた。
「一緒に祭りを見て回りたいが仕事なんだろう?」
「はい、助けて貰って有難うございました」
軽く世間話をしながら角の辺りで別れようとすると、目の前から鎌イタチの芭流夫妻がこちら側に歩いていた。
「なんとっ!百合達も来ておったのか……しかし相変わらず化け物は強そうな連れが一緒だのう」
「命の恩人とその息子さんです、珍しく水入らずですね。まーちゃん身体の具合はどう?」
ジンは芭流に軽く会釈をし、その場で別れたが仕事終わりに会いに行く予定だったのに、二人がここに来ているのは意外だった。
「スイーツの手配はしてあるんだけど、ここのイタチカステラも買っておこうかと思って」
「え――っ、取り寄せのイタチカステラ手土産に持って行こうとしたのにぃ」
「ホント?!私も孫も大好きだから凄く嬉しいよ」
土産についての被りは許して貰えそうだが、九黎は別として、鎌イタチの世界の土産にイタチの世界の品は選別ミスした気がする。
「姉の機転がイマイチでスミマセン」
「ううん、近いと案外買わないから嬉しいよ」
まーちゃんのフォローが入った所で、久々のデートの邪魔をしては悪いので別れる事にした。
「仕事はまだ時間かかりそうだから、祭りをゆっくり満喫してね」
「百合達が来るの楽しみにしてる」
元気そうな姿を見て安心したが、化け物並みの強さの者達が皆、イタチカステラを買いに来ている姿に何となく笑みが漏れた。
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