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まさか空間を出せるようになり喜んでくれているのか、それとも他の意図があるかは不明だが、機嫌がいいというのは有難い。
ビクつく回数も減るし、話掛けやすい環境なので、上手くいけば質問だって出来るかもしれない。
驚かせてやんなと言われたので、期待に添えるよう気合いを入れ直すと、花壇のブロックに座り男女が雑談をしている姿が見えた。
ここは体育館からさほど離れていないが、周りの建物は電気が付いていないので、誰か来ても姿を眩ます事が出来る。
暗殺者養成スクールは隠れ場所になりそうな背の高い植物や木も多く、それを利用すれば仕事もスムーズに運ぶかもしれない。
気配を悟られないよう近づき、視線を合わせたら顔が分かる位になった所で口を開いた。
「死ぬかと思ったけど、三途の川で呼び止められたわ。だけど……代わりにどちらかを連れて行く事を条件にね」
「なっ、お前、どっ」
「キキキィ――ッ!地獄の手前から……」
「やり過ぎて嘘臭いだろ、アンタのキャラじゃないのに、無理させたみたいだね」
完全に空回りしたようだが、お化けらしくと言われてもやった事がなく、妄想で演じる事が好きでも膨らませるのは限界があった。
子供の頃にデパートでお化け屋敷をしていて、金がかかるので入る事はなかったが、キキキと不気味な声がして子供達の悲鳴が聞こえた気がする。
再現しようと試みたが、実際に自らが体験していないので、粗末な結果に終わり先生にも気を遣わせてしまったようだ。
「アンタ……一体何者だ」
「あたいは銀高の転入生さ、だがね喧嘩を売られたからには、買わないと女がすたるってもんよ」
不良女子高生の真似で誤魔化そうとしたが、いつも見ている時代劇が邪魔をしている気がする。
女が立ち上がった瞬間に景色が暗くなったので、もしかして私の空間……いや、先生方との共有スペースに入ったのかとドキドキした。
背景がガラッと変わるタイプや、その場と見た目が変わらないパターン、海外風の景色等何度か他の空間にお邪魔しているので期待が湧く。
だがぼんやりと明かりが灯ったように周りが見えると、リアルな虎や竜が描かれた高さ三十メートル位の屏風があり、地面は黒で将棋盤みたいな線が入っている。
『いや……イカツすぎだろ、絵なのか?出て来そうでマジで怖いんですけど』
この作品は誰作で実物のモデルがいるのかと質問をしたい気持ちと、この空間から早く出たいという戸惑いで暫し動きが止まる。
「さてと、早速始末していいのかね」
「あっ、まだ執行の指示出てないんで、捕獲って形に……」
「アンタんとこの死神来たから、聞いてみな」
怖い空間の一部が透明になると、滋さんが周りを確認し、こちらに向かい歩く姿が見えた。
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