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あまりのショックで忘れていたが、敵を放置したままだったので、周囲を見回すと先生方の声が聞こえる。
「安心しな、ガキは預かってる」
誘拐犯が言いそうなフレーズの後、二人組は姿を現したが女は涙が枯れたという表情をしているし、男は自宅に強盗が入ったかのような顔つきをしている。
ヒクイドリの世界で先生方の拷問の一部を見ていたので、恐らく死なない程度に攻撃されたと想像はつく。
「空間の外に出る時に先生方に犯人を任せたんです、九黎さん、あの女ですよね?」
「――ああ」
「男の方は執行でしたね、滋さ……」
こちら側の男性も微妙に固まってるので、進行役を買って出るしかなかったが、思わぬ言葉に遮られた。
「この男はガキのレベルを超える罪を幾度も重ねている、改善の余地はない」
「どの口が言う?アンタに言われたくないよ、でもやり方にはイラッとしたね」
恐らく先生方は拷問……いや、質問と映像で男の行いを手に取るように分かっている。
そして時代的にカルチャーショックを受けたのと、目を伏せたくなるようなやり口に、少なからず憤慨されている。
先生の年齢は見当もつかないが、ゲームで例えるなら駒を回していた時代と、テレビゲーム位の差はあるだろう。
自分達の若かりし時より犯罪が巧妙化し、酷い内容に変わっているのかもしれない。
「滋さん、今トレンドのスイーツって何です?先生方にどれ位準備出来そうか聞いた上で男を渡します」
あえて大きめな声を出し、機嫌を直して貰おうとしたが、言った直後から向こうがザワつたので作戦は成功のようだ。
「あたし……ドラマで観た檸檬ケーキ食べてみたい」
「贅沢言うんじゃないよ、百合は貧乏だって知ってるだろ」
「準備をするのは金持ちだし、少々問題ないじゃろワシも気になっておる」
お婆ちゃん宅も柑橘系を育てていて、ゆずはお風呂につけて入ったり、レモンはハチミツに漬けにしたりお得意なケーキもあった。
ケーキを買うような洒落た家庭ではなく、貧乏で無理だというのもあり、お婆ちゃんは果物の旬には季節のスイーツもどきを作ってくれた。
その中にレモンケーキもあるが、あの頃はご馳走気分で食べていたのを思い出す。
レモンケーキには少しホワイトチョコを使うので、節約スイーツと言っても豪華な方だし、味も勝手に店みたいだと思っていた。
今は世話をする人が居ないので、かなりすっぱいし小さめのレモンしか出来ないが、お婆ちゃん達が生きていた頃はそれなりに立派だった。
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