洒落たレモンケーキ

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「肉を食べたいのは山々だが、今回は般若を励ますという意味を込め、リッチなハンバーガーにしようか」 「あっ、いつものモールに出来たニューショップ?!」 前回買い物に行った時に気づいていたが、メニューをチラ見した時、結構なお値段だったので足早に立ち去った店だ。 照り焼き系のバーガーならドラム缶も好きだし、ポテトは冷凍食品を買い自宅で揚げるという裏ワザもある。 数秒前までの暗い気分がスッキリと晴れ渡り、ワクワクするというおまけまで付き玄関前に立った。 タタタ……とドタドタという足音が聞こえ、ドアを開けた瞬間に土産の品が奪い取られる。 「わぁ大きなせんべいだね~イナリ、マミーは部分入れ歯だから暫く口に入れておかないと……いや、反対側の歯で噛みしめてみようか」 「余計なチャレンジしなくていいよ、誰も頼んでないし」 先程地獄絵巻を見てきたので、母との温度差はあり過ぎるが、高くジャンプし歓迎してくれるイナリに笑みが出る。 瑠里がモールのバーガーを食べに行こうと言うと、照り焼きと張り切って注文をしているが、実際に店に行くとオーダーは人任せだ。 年代的なものなのか、パスタやドリアには興味を示さない母も、ファストフードは照り焼きバーカーやポテト等は好物というよく分からない法則がある。 ちょっとお高めな金額と知っているので、バーガーは一個と安心しているのか、せんべいの袋を開け手で折ると口の中で早速ふやかしている。 口に入れている間は静かなのでコーヒーの準備をしていると、王子がずっと後ろをついて来るので抱き上げて椅子に座った。 「最近は仕事・仕事で家を空ける事が多いんじゃない?こっちはコミュニケーションが大事な時期なのに、まさかよそに女作ってんじゃ……」 「変な吹替止めてくれる?こっちは家族の為に、死にそうになりながら冷や汗流して働いてんだよ!」 「出た!すぐそう言う、主婦の仕事だって大変なのよ?散歩で運動したりおやつ食べたり、時代劇に出演したりさ」 イナリはオスだし内容には呆れてしまうが、寂しいというデレな部分は態度で伝わるので、母の相手は途中で止めするめをあげた。 その様子を少し離れた場所で見ていたキセロは、机の上で何度かこちらをチラ見して行ったり来たりを繰り返している。 「何?又品定めするような目で見て。働いて来た主人に取る態度じゃなかろうが」 「おかっぴきの久兵衛はね、異変には敏感なんだよ、なんせ町の治安を守る義務があるからね」 今日の時代劇はおかっぴきが主役の長寿番組だが、絶対にこんな性悪ではないと睨み返すと、テヘッと毎度のポーズでするめに目線を落としていた。
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