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目の前にはケーキのボックスがあり、中を開けて確認してみると高そうなホールケーキが入っていた。
絶対に美味しいヤツじゃんと思いつつ木村さんの顔を見ると、親指を立てているので土産用もあるかもしれない。
唯護さんのケーキはカラフルなフルーツがふんだんに使ってあるので、同じく高級だと思われるが、店の新作の紹介のようだ。
「百合さん、お願いします」
そう言われてもあの時は意識をして呼び出してないので、よく考えたら方法が分からない。
「どうやって空間が出せたか、思い出せないんですけ……」
「合言葉でも決めとくかい?それとも正義の味方風に掛け声がいるなら考えてもいい」
頭の中で声が聞こえると、段々と周りが暗くなり地面が将棋の碁盤のようになっていくので、屏風が出たら場所を変えるべく周囲を見回す。
「いよいよだね……」
木村さんも例の物を見る為に気合いを入れているが、瑠里はその後ろで様子を見ていた。
「――えっ?!」
前回はここで金色に輝く巨大で恐ろしい屏風が出てきたが、全体の背景はレモンやレモンケーキ等が可愛く浮かび、ポップな演出がされていた。
四人で顔を見合わせていると、先生方の一人が今日は戦う訳じゃないし、お供えを貰うだけだからと理由を教えてくれた。
「それに前回あれ見て泣きそうな顔してたし、お供えしたくないって思われたらどうするってプチ会議開いたんだよ」
「初対面なんだから、もう少し可愛いの出して慣れさせたら良かったじゃろ」
「どれが可愛いんだい?そんなキャラここに居たかね、あっ蝶なら……」
「あやつは毒の塊じゃろ?葬る時の場面は敵の顔エグイだろ」
「ドラマの言葉を早速使って若者ぶるんじゃないよ!」
何やら揉めているが、お洒落なレモンケーキにプラスでフルーツケーキまで増え、テンションが上がっているようにも思える。
ちょっと楽しそうな雰囲気が伝わってくるし、食器を準備する音や、そもそも背景を変えている時点で受け入れ態勢が整っている。
「では皆さんでごゆっくりお召し上がり下さ……」
「待ちな!提げてる袋の中身を忘れてないかい?」
「いえっ、これは自分で作ったショボいケーキで、お洒落でもないし先生方のお口に合うかどうかも分かりませんので」
試食品として一本おいて行きなと言われ、ケーキの箱の上に置くと、一瞬で全てが消え景色も戻った。
「姉妹並みに品を手に入れたら通信途絶えるんだね」
木村さんが腹を抱え笑いながら部屋を出るので後に続いたが、唯護さんも吹き出すのを耐えているように見える。
元の場所まで戻りコーヒーをいれ、やっと肩の荷が降りたと思っていると、タイミングよく木村さんがカットされたケーキを持って入って来た。
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