恒例じゃない行事

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「あんな場所タダでレンタルでも良かったのにね」 「私もそう言ったんだけど、どうしても納得して貰えなかったし。さっちゃんにも青空市場を紹介して貰えたから一石二鳥じゃなぁい?」 青空市場というのは、田舎の道の駅で定期的に行われる農家さん達が出品出来るフリーマーケットみたいな場所だ。 うちもこじんまりと畑を持っていて、自分達が食べる分位は育てているが、たまに沢山出来る時もある。 そういった場合に道の駅で売ったり出来ると話にもなり、既に一回出品し僅かな収入を得ていた。 そういった流れもあり、例えプチプチプチな金額だったにしても、母からすれば汗水垂らして金儲けをしたと自慢したいのだ。 「うちは娘がパン工場で細々と働いてるけど、田んぼのレンタル代なんてたかがしれてるし、まぁお米も貰えるから助かってるけどさ。でもそれだけじゃダメなのよね~今の時代」 「でも娘二人は十分頑張ってるでしょ、田んぼとか畑のレンタル代なんて微々たるものだし」 「そうだとしてもご縁でそういった話になったんだし、彼らイケメンだしママだって頑張ったと思わない?」 イナリに手を振りながら微笑んでいるドラム缶だが、白髪染めの液の匂いがするので少し離れた座布団の上で、何をしているんだと不思議そうに眺めていた。 「何が頑張っただよ、若いイケメンに頼まれて断れなかっただけでしょ」 「そりゃそれもあるわよ?でももしかして……万が一、いや奇跡に奇跡が重なって、宝くじが当たるくらいの確立で……アンタ達の彼になったり誰かを紹介して貰ったりさぁ」 「ほぼ100%ない感じに聞こえるんだけど。それに職場に関わりのある人と接点持ちたくないんだよね、変に何かに巻き込まれても迷惑だし」 慣れた手つきで白髪染めを終えた瑠里は、ラップで頭を包みながら仕上げに入っていたのでコーヒーを淹れ一息つく準備を整えた。 「まぁあんた達に迷惑は掛けないようにするから。少しでもママが小銭稼げると思って様子を見ててよ」 「ママじゃなくてババだけどね。でも家庭菜園での野菜が少しでも売れたのは確かにいい傾向だよね。範囲を広げたらゆくゆくは商売に出来るかもしんないし」 「いや、そこまではいい。もう老体で足も悪いから必死に働くには限度があるからね」 こういう時だけ年齢を掲げてくるドラム缶にイラっとするが、何はともあれ昨年は空いた荒れ地をレンタルされたり、青空市場で母が野菜を少し売ったりと例年にない行事が入っていた。 少額とはいえ母が収入を得るなんて、貧乏生活をしている時も全くなかったので逆に嵐の前の静けさというか、何か悪い事が起こる前触れなのではと変に勘ぐってしまう。
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