恒例じゃない行事

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地元のおばさん達もゆっくりとしたペースで集まってきて、巫女姿のお姉さん方が何やら挨拶をしてから戦は始まった。 袋に入った餅をお姉さんがこちらに向かって撒くと、母達はダンクシュートを決めるのかという位ジャンプしむしり取っている。 無論私もそのおこぼれを逃すまいと、タイミングをワザとずらして飛び上がる。 「グッ……」 伸ばした手をすり抜け、見事に顔面に餅がヒットし痛さでオッサンのような低い声が出たが、素早く懐から肩に上ったイナリはその餅を口に咥え元の場所に戻る。 後はおばさん達にもみくちゃにされながら、掴めるだけの餅はキャッチしたが初めにおでこに当たった痛みで思うように取れなかった気がする。 それでも貧乏人根性で袋に包まれた紅白の丸餅を7個程ゲットしても、何となく納得いかないままおみくじの事を思い出した。 「あ~あ、くじは吉だしデコは痛いしパッとしない新年だわ。でもイナリ……額にヒットした餅を逃さないなんて格好良すぎる!」 懐に戻っている王子をしっかり撫でていると、半笑いの瑠里達がこちらに歩いてきた。 「ウケるんだけど!高貴な餅を顔面でキャッチって!しかも連係プレーで手に入れる辺り貧乏一家の鏡だよ」 「まぁウチの王子達は優秀だからね。キセロだって2個も取れたんだよ?でも当たった時の歪んだ顔が面白くって……ププッ」 「おい、そこは『大丈夫?』って優しく聞いてあげるのが家族やろが!」 石が当たった並みに痛かったのに、我が家の武将達は腹を抱えて笑っているのが(しゃく)に障る。 「痛いのは知ってるよ、私も子供の頃に頭に当たって大泣きしたし。でも根性見せて5個以上手に入れたのは褒めて使わそう。さぁ後は団子と稲荷を買って祝杯じゃ」 武将二人の満足な笑みとナイロンのエコバッグの膨らみを見て、まぁまぁ取れているのが分かる。 私の戦利品も瑠里に預け、稲荷寿司の屋台に並んでいたが母達は団子の屋台へと向かった。 後は家に戻って餅を食べダラダラしようと考えていたが、後ろからプッと吹き出す音がしたのでチラッと視線をやり目を見開いた。 「何で……ボンレスがこんなとこにいる?正月も開けてるし親族はいないと思ってたけど」 「すんごいなお前ら……餅撒き選手権があれば日本代表に選ばれるんじゃねえの?」 先程の戦をこいつに見られてたと思うと腹立たしいが、思い出し笑いをされる程他人から見れば面白かったらしい。 「まっ、まさか他にも誰かいるんじゃないよね?てか、ボンレスがいるなんて雪が降るんじゃない?」 「同じチームだから年末年始仕事だって知ってるだろうが。初詣も行けてないしとりあえず思い出したのがここだが……爺さん達はいないけど予想外の親族がいて……」 「あぁ、アンタもコミュニケーション能力低いもんね。可愛げもないし生意気で高飛車で金持ちを鼻にかける奴なんて、話の輪からはみ出されるもんね」 ギロリと睨まれるものの、一部合ってる所があるのか言い返してこないので、餅撒き選手権日本代表と言われた仕返しは果たせた気分だ。 「ここは老人メインで人も少ないから、参拝して稲荷寿司買って帰ろうと思ってたけどよ、花むすびの奴らとか居て神主が休憩所に案内してくれたし……」 「えっ、妖怪エリアの人ら来てんの?!そりゃアタシらも早く帰らねば」 社長達に会わずに済むと安心していたのに、特殊班の奴らと出くわし、ウッカリ仕事の話を依頼されても迷惑でしかない。 「お前んち空き地を貸したらしいな、てかそんな接点持って大丈夫なんか?アイツらは仕事で絡むとマジでヤバい。付き合いなんてなかったのに、又変わった奴らが寄って来てんじゃん」 「私だって断りたかったよ。でも母が乗り気だったし、あの場所は草刈りが大変だったから、綺麗にして貰えるなら死んだ祖父母も喜ぶだろうって話がまとまってさ」 ボンレスは知り合いと出会ってホッとしているのか、いつもは言い合いしかしない私に普通の会話をしてくるので、恐らく居づらい空間で耐えていたに違いない。 おまけに空き地をレンタルした話も妖怪班からではなく、さっちゃんからたまたま聞いたらしいので、クッション役が居なければ恐らく無言で茶を飲み時間を潰していただろう。 「まぁ無事稲荷寿司は手にしたし、母達と合流してこっそり帰るわ。ボンレスも気をつけて」 締めの言葉をいい団子の屋台に移動しようとしたが、服の袖を少し引っ張り止められた。 「止めとけ、お前の母が花むすびの誰かに声かけられてた。瑠里は居なかったから逃げたと思う。休憩室の奥側でお茶とか貰って時間潰してから合流した方がいいぞ」 「なるほど……では場所を案内せよ」 「なっ、先輩に向かって……」 新年から啄を怒らせそれを少し楽しみつつ、道案内をしてもらい休憩所に向かった。
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