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「ちょっと、満席じゃん」
餅撒きで運動したお婆さん達が、団子を食べながら休憩しているので別の場所を探すしかない。
「裏に座る所があるけど、外で寒いしな」
「じゃあその袋に入ってる団子と、どうせ飲み物もストック持ってんでしょ?それを摘まんで時間潰すしかないね」
「ったく、先輩に全く遠慮がないな」
道案内をさせた挙句、人の食べ物をアテにするのは月影家の住人らしいが、立花の親族が金持ちなのを知っているからだ。
おまけに同じ萌葱刺繍のチームなのでこういう態度でいられるが、基本人見知りなのでこんなやり取りも出来ない。
木で出来た丸い切り株のような場所があり、大人が5~6人座れそうなスペースになっている。
反対側にお爺さんとお婆さんが座っていたので、手前に並んで腰を下ろし飲み物を受け取ると、タイミングよく瑠里の姿が見え手招きをした。
「珍しい組み合わせだね、まぁドラム缶の話が終わるまで適当に時間潰そうや」
当たり前のように啄から団子を受け取ると、いただきますをして口に頬張っていた。
三人で無言で団子を食べていると、後ろの爺さんがお婆さんに話しかけている会話が嫌でも聞こえてくる。
なぜならお互いに耳が遠いのか声が大きいし、聞き返すので同じセリフが2~3回繰り返されるからだ。
「シズさんの為に頑張って桃色の餅を掴んだから、後で焼いて食べんさいって言いよるんじゃ」
「ええよ、私よりシゲちゃんが食べたらええのに。せっかく頑張って取れたのに勿体ないわぁ」
「――はぁ?」
「シゲちゃんが食べたらええよ、勿体ないし」
「――え?」
2人の会話の声がどんどん大きくなっているが、背中越しに私達が団子を食べているという事は特に気にしていないようだ。
「まぁ取っときんさい、ワシは今入れ歯の調子が悪いし、シズちゃんの為に頑張ったって言いよるじゃろ」
「まぁ~そんな事言うてから、前はマツさんと青空市場でコーヒー飲んどったくせに。たぶらかすつもり?」
「何言いよるん、こんな年でたぶらかすも何も……あれはお友達として話しよっただけやし」
後ろをチラ見すると、お互いに白髪だが正月の餅撒きに参加という事で精一杯お洒落をしているのか、婆さんはフワフワした小さなストールを首に巻いている。
ここに居てもお邪魔かもと啄を見ると気まずそうな視線が返ってきたが、瑠里は気にせず2本目の団子を勝手に食べていた。
「そ、そろそろ向こうに行く?」
「そうするかな、俺も帰る支度しようかとおも……」
「あらあらええんよぉ、兄さんらも餅撒き来たんじゃろ?両手に花でモテモテやね」
婆さん達は耳が遠い筈なのに、小声で話した会話は聞こえたらしく、振り向きながら声をかけられた。
「誤解されたくないんですけど、この人は会社の先輩でプライベートは一ミリも関係ありま……」
「――はぁ?」
思い切り否定してみたが、肝心な事は聞こえないようで、遮るように聞き返されてしまった。
「この爺さん誰でもすぐ口説くんよ。こんな歳になっても病気は治らんってどう思う?」
冗談っぽく言ってはいるが明らかに嫌な気分じゃないのは伝わってくるし、誰かに聞いてもらいたい風に話かけられても、どう対応していいのか分からない。
「お、おば……いや、お姉さんが綺麗だからじゃないですか?」
2分程考えてから答えを絞り出してみたが、啄も引きつった笑みを見せこの場をやり過ごそうとしていた。
「違うわいね、ワシはシズさんと仲良くなりたいと思うとるのに、この婆さんが理由をつけて拒んどるだけじゃ、ほうじゃろ?」
次は啄が振られて苦笑いを浮かべているが、ぶっちゃけこの爺さん達の恋愛事情に興味もないし、回答を求められても三人の中に誰も恋人はいない。
「まぁ、その、よく分かりませんがもしかしたら照れ隠しかもしれ……」
「――はぁ?」
『会話にならねーし!』
基本人見知りの上、彼氏彼女もいない私らに振ってくるなと思っていたが、団子を食べ終えた瑠里はスクッと立ち上がった。
「お互い若くないんだし意地を張らずに素直になったらいいよ、老後一人だと寂しいだろうし、二人でいると救急車も呼んで貰えて助かるよ?」
お前は何歳だと思うような台詞を述べると、老人達は笑顔で微笑んでから又二人の会話に戻っていた。
私達はその場を去り、瑠里先生はさすがだと感心しながら来た道を戻っていた。
「聞く相手間違えてるだろ、俺は今フリーだし」
「あの人達は答えを求めてないよ、第三者を巻き込んでお互いの気持ちを確認したかっただけだから」
「……だから瑠里、アンタ何歳な訳?」
話をしながら屋台の端の方に戻ると、母がこちらに向かって歩く姿が見えたので、周囲を警戒し妖怪班らしき人が居ないと確認してから合流した。
「うふふ、新年からイケメンと会話出来るなんて縁起がいいわぁ」
「あのね、こっちは疲れてんだから餅を頂いたらとっとと帰りたかったんだけど」
啄は静かにフェイドアウトしていて、王子二匹は戦利品を気にしながら歩いているが、さすがベテラン俳優達は母の前ではリードを強く引かず程々のペースを保っている。
とりあえず余計な頼み事もされず、上手く難を逃れた私達……と言っても母は関係ないが、そのまま逃げるように自宅を目指した。
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