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電話が終わると駐車場で母達を待つ事を伝え和菓子の件を聞こうとした。
だが婆さんもタクシーで病院に行くと言いだし、横にあるケースを出すとここで待っていて欲しいとお願いされた。
ケースの中には沢山のおはぎや生菓子があったが、知らない場所で待つのは不安だし車の方が気が楽だが、婆さんはどうしても病院に行きたいようだ。
「歩兎が仕事から帰って来るので、誰かが居ないと困るんです」
支度の為か婆さんは奥に入ったが、急遽戻る人が歩兎さんなら、居ない方がいいのではと思いつつおはぎは一個口に入れた。
「何かあれば連絡を入れますし、歩兎は又仕事に戻るかもしれませんが、念の為楓が信頼している百合さんに居て貰いたいんです」
準備を終えた婆さんはそう言い残し事務所を出たが、綺麗に掃除された広い部屋を見渡し、盆に置かれたポットのお茶を入れソファに座った。
「念の為ってどういう意味だろう……」
職場で巻き込まれる率が多いのでつい深読みしてしまうが、何となく嫌な予感がして木村さんにメールで報告を入れておく。
休みの日だし連絡しなくていいのは分かっているが、新作会の時に事前に知らせるのを忘れ地獄を見たので、願掛けのようなものかもしれない。
ソファに座り目を閉じて暫くすると、瑠里からのメールで『楓さん盲腸で手術』と報告が入る。
楓さんの身内もいるし、後は母達が戻るのを待つだけなので、トレーに和菓子を集めているとドアが開き歩兎さんが入って来た。
「おかえりなさい、知ってると思いますが楓さん手術になるそうです」
「……あぁ、さっき狛から連絡があった。迷惑をかけて申し訳ない」
正面に座った彼にお茶を出すと、無言で飲む顔色は良くない。
彼女を病院に運ぶ時もだが、こういう時は男性の方が動揺が大きいのかもしれないと思いこの場を離れるタイミングを見ていた。
「母達もうすぐ帰って来ると思いますので駐車場で待ちます、お婆さんに言われてここで待機してましたが歩兎さんも戻って来たし」
「……あぁ」
空返事に若干心配になるものの、同じく瑠里が病院に運ばれたらと思うと、仕方がないかもとトレーを手に持った。
「これ食べていいとお許しが出てるんで持ち帰りますけど、後日トレーを返却しますね」
ドラム缶は腹ペコで帰って来るので、もしかするとすぐになくなるかもしれないが、洗って返さないとマナー的に怒られそうと先手を打った。
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