楓の心配事

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「いや、完全に朝食狙いだろ」 「まぁ、いつも買いに来た時は和菓子沢山貰って話してる人だし、息を切らせて心配そうにしてる姿を見て、死んだお婆ちゃんを思い出したのかもよ?」 母は帰って来ないと分かったが、どういう作戦に出たらいいのか微妙に悩む。 私達がタクシーで帰るパターンが一番丸く収まるのは分かっているが、車を駐車場に置いてもいいかお伺いを立てる必要がある。 本当ならサラッと車を運転して帰りたいが、母はタクシー代を持ってないだろうし足がないのは可哀想だ。 こういう時は妹に頼むのが一番なので、歩兎さんから『タヌキにならないか』と依頼された件を伝え、ここから出たくない旨を告げる。 「御意、念の為ドラム缶にはタクシー代を渡したけど……別の事で必要になる可能性もあるから、車置いて帰る方が安心だしね」 彼らも車で何かを話しているらしく、瑠里がそちらに歩く姿を目で追っていたが腹の虫は大合奏をしていた。 歩兎さんと数分話をした後、彼らは走って事務所の方に向かったが、エンジンはかかったままだ。 瑠里はオーマイゴットのゼスチャーをしてから手招きをするので、和菓子を乗せたトレーを持ち車の鍵をかけて歩いた。 「二分で支度をして職場に送るから待ってだって。二人でタヌキになってみようよ」 「えっ、なんでそんな話になってんの?てか、何に釣られたの」 澄ました顔でトレーの和菓子を摘まむ瑠里を見て、もう我慢せず口に頬張ったがこんな状況でも裏切らない美味しさに自然と笑みが出る。 木村さんにメールで連絡はしているが、瑠里に電話もあったらしく空蝉屋から依頼も受けたらしい。 病院に連れて行く間も、仕事の件を口にしていた楓さんは『後は百合に頼みたい』と目で訴えられたと勝手な妄想も入っている。 「そんな事楓さん言ってないだろ、アタシらじゃ無理だよ」 和菓子の差し入れを持って行く時に、老人達も身内に頼むのか色々持ち寄るらしく、特にイタチの用意する高級ハンバーグステークは絶品らしい。 こちらの値段だと一つ二万五千円という驚愕の金額で、思わず目を見開き動きが止まる。 「絶対に普段食べれない高級ハンバーグだよ、フォルムだけでも拝みたいと思わない?それに楓さんには世話になってるし、無理でも姿勢を見せるって事でさ」 確かに『やろうとした意思表示』は、今後藤井屋に和菓子を買いに行く上で大きなメリットになると思う。 単品買いだったとしても『まぁ特別に許してやろう』と敷居が下がるかもしれないし、実際に怒られた事はないが、箱買いが多いので貧乏人は気になってしまう。 いつもお茶のチケットも人数分くれるし、庭では沢山の和菓子をご馳走になっているので、危険がなければ恩返しをしたいと考えも変わってきた。
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