楓の心配事

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歩兎さん達が戻るとカジュアルな服装なので、不思議に思いながら車に乗り込む。 ウチの軽自動車が駐車場でポツンと残されているが、柵の鍵をかけ職場に向かった。 助手席の歩兎さんは無言だし狛さんも緊張した面持ちで、楓さんの事が心配なんだと思うと今日の仕事はキャンセル出来ないのかと頭を過る。 「初めに言っておきますが、危険がなく無理ならすぐ帰るって方向でいいんでしょうか」 「ああ、それで構わない……俺も実際上手くいくと思ってないし、和菓子を差し入れて終わりかもしれない」 トランクに積まれた重箱を指差す彼は、実は仕事の心配をしているのかもしれないが、瑠里もそれ以上は突っ込まず車内は重い空気が戻る。 工場に着くと、来客用なのか品質管理部から近いエリアに車を止め彼らは重箱を持ち受付に向かった。 木村さんが笑顔で迎えてくれたが、私達は着替えるように指示を受け二人は別室へ案内されるようだ。 ポロシャツにデニムという服装で何処かの制服かという格好だが、イザリ屋仕様だし生地もいいので、私服とは比べ物にならない値段だと思われる。 「エプロンつけたら宅配で食事運んでくれるおばさんみたい」 「あぁ、あと車椅子押してる介護施設の姉さんっぽいかも」 受付に戻るとコーヒーを飲みながら待っててと告げられ、残った和菓子は預けて保管をお願いした。 少し風味は落ちたかもしれないが、母への戦利品だし取っておいてと言われた以上全部食べたでは済まされない。 木村さんが部屋に入ると説明をされると思いきや、まだ交渉の途中だが大まかな流れを話しておくと言われた。 本来姉妹は休み中だし馴染みの空蝉屋の依頼とはいえ、執行ではないのでこういう場合、偵察を得意とする赤刺繍が受け持つ担当らしい。 エリアは妖怪方面ではないし、簡単に言えばイタチ周辺の者達が集う老人ホーム的な所に、差し入れの和菓子を運び談笑して帰るだけの話だ。 私達は人見知りだし適任を向かわせたいのがイザリ屋の意見だが、楓さんが指名したのもあり、完璧な人より彼女の意見を尊重したいと納得しないらしい。 「まぁ危険がなく手当てもつくなら、私は引き受けても構いませんけど」 「楓さんの代わりは務まらないですけど、日頃お世話になってますし」 「やっぱり姉妹はそう言ってくれると思ってたわぁ、手当ては弾むし和菓子も新しい物を用意するからお母さんも喜んでくれる筈よ」 あっさりと意見を変える木村さんを見て、何やかんやで初めから行かす気だったのではと思ったが、引きつり笑いで誤魔化しておいた。
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