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その日の夜。
聡は自宅でコンビニ弁当を食べながら、上司から任された仕事について考え込んでいた。
まだ入社して二年も経っていない新人であるのにも関わらず、エトワールのような有名芸能人との大仕事を任せてもらえるなんて大抜擢だ。
本来であれば手放しで喜んでもいいはずだが、聡にはそうできない理由がある。
それは、プレッシャーや自信がないからではなく、相手があのエトワールだからだった。
エトワール。
六年前に公開オーディションによりデビューしたボーイズグループで、結成した当初から地道に人気を集めていき、今ではアイドル界のトップにまでのぼりつめたといっても過言ではないだろう。
「昔のよしみ、か……」
変わりばえのしないコンビニ弁当のおかずを食べながら、聡はぽつりとつぶやく。
上司の言っていた通り、聡にはアイドルを目指していた時期があり、エトワールと同じオーディションを受けて、そしてファイナルで脱落してしまった。
それからしばらくはまだ芸能界を目指していたが、結局大学に進学し、今の会社に入社した。
就活の際には、自分からエトワールと同じオーディションのファイナリストだとアピールしたぐらいだったが、実は聡はエトワールのメンバーたちとはあれから一度も会っていない。
連絡は何度かとったし、食事に誘われたこともあったが、何かと理由をつけて断っていたら、向こうも忙しいのか最近は連絡さえもこなくなった。
直接会っていないどころか、テレビにエトワールがうつっているとチャンネルを変えてしまうし、街にエトワールの広告があるとつい目をそらしてしまう。
自分ではとっくに吹っ切ったつもりだったが、どうしてもエトワールを見る度にオーディションに落ちた時の苦い気持ちが蘇ってしまうのだ。
ファイナリストだったことを売りにして成功してやろうと、この六年間で自分から散々それをアピールしてきたくせに、本当はエトワールを見ることさえ出来ないなんて……。
聡はあまりにも自分が情けなく感じ、思わず唇を噛みしめる。
(六年も経ってるのに、なんでだろうな。今さらアイドルになりたいとも思わないけど……)
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