叶えられなかった夢

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「……あ、あれ?なんで……」 最終回の動画を見ているうちに、聡はいつのまにか涙を流していた。それに気づいた聡は、慌てて手で涙を拭う。 あの時は泣けなかったのに。 今さらアイドルや芸能界に未練はないはずなのに。 聡はなぜ自分が泣いているのか分からなかったが、六年前のまだ高校生だった自分を見ているとあの時の気持ちが蘇ってくる。 「本当は、……、本当は、俺もみんなと同じ場所に立ちたかった。俺も、選ばれたかった」 おめでとうやありがとうという言葉に隠し、無理矢理押さえ込んで言えなかった言葉。 聡は泣きながらも画面の向こうの彼らにそれを伝える。 祝福する気持ちや感謝している気持ちは嘘じゃない。今さらアイドルに未練がないのも本当だが、あの時は確かに悔しかったし、聡だってデビューしたかったのだ。 それをずっと言えないまま今日まできてしまったから、今までエトワールのメンバーたちに対して複雑な思いを抱いてしまっていたのかもしれない。 もうその言葉を言う機会はないし、言う気もないが、今それが言えただけでも、聡は不思議とすっきりとした気分になっていた。 (みんなに会ったら、何の話をしようか) 戦っている場所は違うけど、今度こそエトワールのメンバーたちに負けないくらいに自分も輝きたい。 心からそう思った聡は動画を消して、エトワールとの仕事のための下準備を始めた。
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