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新婦か新郎の母親が来たのだろうか、と窓際に座るその女性を見ながら松下早妃は思った。
窓からの光が、頭髪にところどころ交じる白髪に反射している。目元の皺や口元のほうれい線から察するに、四十代後半から五十代前半だろう。自身が二十代で子どもを産んでいるとしたら、結婚する年齢の子どもがいたとしても何の不思議もない。
ただし、新婦か新郎の母親が一人でウェディングサロンに来ているなら大問題だ。窓辺に一人で座る姿を見たとき、早妃の頭に浮かんだのは「何か面倒なクレームをつけられるのだろうか」だった。
ウェディングサロンは、これから夫婦になるカップルが訪れる場所だ。新郎の都合がつかなくて友人や母親と一緒に来る新婦や、一人で来る新婦もいないわけではないが、那須でリゾートウェディングを希望するカップルは旅行がてら二人で訪れるのが大多数だ。
早妃が勤めるホテルパンルージュ那須にも小さなチャペルがあり、結婚式を挙げたいカップルが毎年多く訪れる。ここでウェディングプランナーとして働き始めてから九年目を迎えるが、中年女性が一人でやってきたのは初めてだった。
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