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「一体、どのような用件でいらしたの?」
早妃は笹沼に小声で聞いた。入社三年目の笹沼が「今サロンにいらっしゃるお客様の件で、松下チーフに至急相談がある」と言うから、早妃はミーティングを抜け出してまでここへやってきたのだ。
「挙式のご相談なんです」
笹沼が形のよい眉を八の字に下げる。カップルには親身に対応し、現場ではきびきび行動する、将来を嘱望されているウェディングプランナーである笹沼のこんなに困った顔は見たことがない。
「成約済みのどなたかのご家族?」
女性は手持ち無沙汰な様子で紅茶に口をつけている。笹沼が席を外して五分以上は経過しているはずだ。クレームなら待たせる時間をこれ以上延ばすわけにはいかない。
「いえ、違います。ご本人が挙式を希望されています」
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