那須野が原の花嫁

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「お客様、大変お待たせして申し訳ございません。わたくし、チーフウェディングプランナーをしております松下と申します」  早妃は女性の向かいの席に座り、名刺を差し出した。  女性に正面から向き合うと、年齢を重ねていることがよりよくわかる。薄いファンデーションは染みを隠せておらず、首元にも皺が目立つ。ここ最近の那須は寒さがぐっと厳しくなったのでジャケットの下にセーターを着こんでいるが、セーターには毛玉がいくつもできている。 「あ、ご丁寧にありがとうございます」  女性が枯れ枝を連想させる指で名刺を受け取っている間、早妃はカウンセリングシートに目を走らせた。  女性の名前は寺本和花(てらもとわか)。年齢は四十九歳。職業は会社員で住所は東京となっている。挙式予定日や招待予定人数、どのような挙式や披露宴をしたいかという記入欄はすべて空白になっており、カウンセリングシートの一番下に「直接ご相談させてください」と小さな字で書かれていた。
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