(青木 千春)

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「青春の~~馬鹿野郎~~」 もう一度同じことを叫んでみる。さっきよりも大声で。何なら宮城さんが練習しているテニスコートに届いてもいいと思ってる。頑張れば届く、屋上からテニスコートはそんなに離れていない。でも、この声を宮城さんに届けたところで何も変わらない。それは嫌がらせにすらならない、ただの負け犬の遠吠えだ。 「うるさいね~~集中力が途切れるは~!」「何、演劇部の練習?ほんと 場所考えてよね?」 宮城さんも、庭野くんも他の誰も、私が何故 屋上で叫んでいる理由には気付かないはず。庭野君に彼女が出来たからって理由だけでこんなことをするのは、私だけだろうから気付くわけないよね。 「おい、何やってんだよ」 「どうした?ダイエットにでも失敗したか~?」 「何ダイエット?糖質制限?朝ミルク?それとも、ハードな運動してるとか?」 後ろから男の子の声が聞こえる。振り向いて顔を見なくても誰がきたかの予想はつく。昔から聞いてるこの優しい声。 振り返ると、やっぱり、俊哉だった。 「違う、ダイエットなんかしてないし」 「私は標準体重だから……別に痩せる必要ないし」 俊哉は幼なじみとして、私のことを心配して来てくれたのかな?優しいな俊哉は。 俊哉…… 鈴木 俊哉とは、物心ついた頃からの幼馴染みで、私の初めての友だち。 小 中、高と同じ学校に通っている。俊哉が私のことをどう思っているのかは分からない。 「腐れ縁?幼馴染み?数いる友だちの中の1人?それともただの同級生?」 私は今でも俊哉って呼んでいるのに、俊哉の方は私のことを名前で呼んでくれなくなった。小学生の頃までは、千春って名前で呼んでくれていたのに。私との関係は面倒くさいと思っている? 「そうだな。今のままで充分…………」  俊哉は文末を濁した。なんて言おうとしたのかな。何かフォローしようと思ったけど、言葉が見つからなかったのかな。俊哉は優しいから……何か言って励ましてくれようとしたんだろうな。 正直、このタイミングで俊哉が来てくれたことは嬉しかった。私が屋上に来たすぐに来られてたら、それは嫌だった。たまたまなのか、俊哉がタイミングを見計らって来てくれたのかは分からない。 俊哉だって気になる子くらいいるだろうけど、こんな私に構ってくれる。 それは私と俊哉は幼馴染みだからかな。
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