第ニ章 荒野の3兄弟+1

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第ニ章 荒野の3兄弟+1

 「クウの兄貴、腹減らねえか?」  辺り一面、瓦礫と砂山しかない、荒野の真ん中で、浅黒い顔の大男が、割と情けない声で、先を歩く小男に声を掛けた。  クウと呼ばれたその小男は、返事もせず、黙々と先を歩いている。 「クウの兄貴ってばよう。」 「うるせえぞ、ノウ!」 クウと呼ばれたその小男は、後ろを振り返ると、その身体には似つかわしくない野太い声で、後の大男を睨めつけた。  ちょっと、苛ついている様だ。  ノウと呼ばれたその大男は、ちょっとビビりながら、 「そんな事言ったって、コレばっかりは、どうしようもねぇ……。」 と、愚痴ってみせる。  「大体前の町で、お前らが暴れなければ、今頃はもうとっくに、ガロン研究所に、着いている筈なんだぜ!」 と、クウが怒鳴る。  「大体、腹が減ったと言っても、食い物がねぇ。」 と、つなげた。  辺り一面、瓦礫と砂山しかなく、レストランどころか、町そのものが無い。 「確かこの辺りって、クーツて言う町があった筈だけど?」 ノウの後ろから、やや軽やかな声が飛んできた。  クウとノウが、その声の主に注目する。其処には長髪で長身、そして痩躯の優男がいた。 「何だよジョウ、お前も腹が減ったのか?」  クウがその男、ジョウに声をかけた。 「ジョウ、お前も腹が減ってるよな?」 ノウが、同意を得ようとして、話し掛ける。  その言葉に、軽く笑みを返して、  「この有様じゃ、去年の大嵐にヤラれたかな?」 と、ジョウは独り言とも、ノウに言い聞かせるとも取れる、風に言った。  此処は、西部と南部の国境沿い。  西部と南部の間は、砂漠地帯が広がり、点々とオアシスが有って、其処に町が出来上がる。  但し困った事に、砂漠気候は竜巻が発生しやすい。  この近隣の街町も、大抵竜巻の被害に少なからずあって、大きい街はそれなりに復興するが、小さい町は、そのまま打ち捨てられてしまう。  オアシスの規模で、街の大きさも変わってくるので、小さいオアシスだと、ひょんな事で、オアシスが枯れたりするので、そう言う時は、町自体を住民が、捨ててしまうのだ。 「兎に角、後50キロも行けば、サウバの街に着く。シャの旦那が、新しい馬と車を用意してくれてる筈だから、其処までガンバレ。」 と、クウが檄を飛ばす。 「クスクスクス……。」 3人のやり取りを見ていて、一人ラクダに乗っている少女が、笑い出した。 「何ですか?クム殿。何か、可笑しいですか?」 ジョウが按上の少女に、話し掛けた。 「いやいや、相変わらず、愉快な仲間たちじゃな。」 ちょっと年寄り臭い、言い方をする少女であった。  西部地区の、特別機動隊の一番隊隊長、ゴ・クウ。 そのゴ・クウの実弟で、機動隊壱の怪力の持ち主、ゴ・ノウ。  そして、ゴ・クウ、ゴ・ノウとは母親違いの弟で、情報戦の旗手、ゴ・ジョウ。  3人とも、薄灰色の特殊なジャケットを身に着け、この砂漠を徒歩で渡っている。  そして、一人ラクダに乗っているのは、ハン・クム。シャ・カ達が探していた、ハン一族の一人である。  クムは、黒い頭巾に藤色の長い布を、身体に巻き付けて、それを服としていた。 三人は、シャ・カ執政官の任を受けて、ハン一族を捜索していたのだ。  ゴ・クウの提案で、奇病の発生ポイントから当りを付けて、国境周辺を捜索していたのだ。  実際、ハン一族の少女、ハン・クムは、直ぐに見つかった。  シャ・カ執政官から、ハン一族の詳しい人相書を頼りに、国境周辺の町から沼沢地から、山岳地帯から、くまなく探す筈だったが、意外にアッサリ見つかった。  国境沿いの、小さなオアシスに、彼女は居た。  人相書にある通り、透き通るような白い肌。ちょっと、赤味がかった長い髪。何よりも目を引くのが、彼女の目である。  深い翆色の瞳、ぱっちりとした二重。  何故か見る者の目を、強引に惹きつけづには於かない、不思議な目をしていた。  人相書に、注意事項があった。  曰く、彼らの目を、凝視してはいけない。  彼女に出逢って、開口一番。 「待っておったぞ。」  そう言って来た。 「私の占いに、そう出ていたからな。」  彼女は、占いをしながら、旅を続けていたそうで、三日前から此処で待っていたと言う。 「私共は、西部執政官のシャ・カの遣いで、貴女を迎えに来た者です。」 ゴ・クウは、畏まった風に挨拶をした。ゴ・クウは注意事項の通り、彼女の目を見ず、鼻に視線を合わせた。 「妙に、ダンゴっ鼻だな。」 そう思った。  ゴ・クウは、此処に来た理由と、此れから何処へ行くかを、丁寧に説明して、 「私共に、ご同行願えますか?」 と、彼女に尋ねた。 「その為に、待っていたのじゃ。」 そう言うと、彼女は身支度を整えると、 「さっ、行こうかの?」 そう言って、サッサと歩き出した。 「えっ?良いんですか?」 呆れたように、傍らにいたゴ・ジョウがそう尋ねた。 「まぁ取り敢えず、悪い奴らでは、無さそうだからな。」 ハン・クムは、そう言うと笑いながら、歩を早めた。  「何か、妙だね。クウの兄貴。」  歩きながら、ノウが口を開く。  何が変だと言えば、先ず彼女の物言いである。丸で年寄りのような、口の効き方である。まぁ、年寄りじみた口利きをする少女は、居なくもない。  見た目、17~18才のハイティーン。  しかし、その年代の少女にしては、妙に堂々としている。 「俺の推測を信じるなら、彼女は間違いなく、俺達の誰よりも、年上だ。」 ゴ・クウは、小声で言った。 「まさかぁ……。」 ノウは、ちょっと呆れたように言う。 「彼女は、反人ハン一族だ。」 ゴ・クウは続けた。 「反人は、俺達より長生きだ。」 そう言って、ゴ・クウはチラリと後ろを見た。  ゴ・クウ達よりちょっと離れて、ジョウが曳くラクダに乗る、クムを見た。  どう見ても、17~18の小娘。  しかし……。 「ゴ・クウとか言ったか?南部のガロン研究所に行って、その後はどうするのじゃ?」 鞍上のクムが、不意に問いかけてきた。 「此れは、機密事項ですが……。」 ゴ・クウは、ちょっと躊躇いながら、 「此れから行く、ガロン研究所は、表向きは疾病対策センターだが、実は異人対策本部と言って……。」  南部には、国際的な研究施設が、多数設置されていて、その一つがガロン研究所であった。  そのガロン研究所にある、異人対策本部言うのは、人類の中にしばしば現れる、亜人、異人を研究する機関なのであった。  この世界には、必ず(総てと言う訳ではない。)亜種が発生する。  発生は同じなのに、生活環境やウィルスのせいで、姿形や身体能力に著しい違いが発生する。  環境のせいで、身体に差異が生じるのは、珍しくない。  寒い地方で、何代も暮らしていたりすると、鼻筋が伸びて、気道が長くなったり、肌の色が白くなったりする。  暑い地方で何代も暮らすと、鼻が低く横に拡がり、肌の色が濃くなる。  まぁ、多少の違いは、誤差のうち。  例え足がデカかろうが、臭かろうが、どんなに他人と違いがあっても、能力的に差異が有っても、そんなものは通常の人類の範囲。  亜人、異人は、明らかな特殊能力の持ち主を言う。  俗に異人は、超能力者。  亜人は、異常体質。  そう言われているが、ハッキリとした違いはない。  世界中から、特殊能力者が集められている。  だが反人類は、初めてと言うことだ。  ゴ・クウからして、反人を初めて見た。  全くの伝説上の、もっと言えば、空想上の存在だと思っていた。 「そのガロン研究所で、貴女は多分生涯を過ごす事になるはずです。」 ゴ・クウの表情が、少し暗い。  実を言うと、ゴ・クウは、幼いときに、ガロン研究所に居たことがあった。  ゴ・クウとノウの父親は、ゴ・レツと言い、西武辺境の守備隊の、部隊長だった。そしてレツの妻であった、ヨカの間に生まれたのが、クウとノウであった。  ところがクウは、産まれてすぐに、ガロン研究所に預けられてしまった。  その事については、クウは覚えてはいない。  クウが覚えているのは、どこまでも続いていそうな、高く白い壁と、ガン爺と名乗る、自分の世話をする、初老の男性職員。  レツについては、顔すら知らない。  後で母親から、聞いたものである。  母親も5年くらいしてから、(これも後から、聞いた)クウ達を引き取りに来た。  何故自分達が、ガロン研究所に預けられたか。その事には、後で気がつく事になった。  彼らが、砂漠を彷徨うように歩き続けて、ようやくこの砂漠地帯の最大都市、サウバに着いた。  ゴ・クウ達は、シティホールの前まで行くと、ゴ・クウだけが、ホールの中へ案内されて、ノウ達はホール横のレストランに案内された。 「ヤレヤレ、やっと飯にありつける。」  ノウはホクホクしながら、レストランに入って行った。  サウバのシティホールで、ゴ・クウはシャ・カ執政官の用意してくれた、車の受け取りの書類にサインをしていた。 「お?ゴ・クウじゃないか?」 ホールの受付で、書類にサインをしているゴ・クウに、後ろから声を掛けるものがいた。 「その声は、ジャイ?」 ゴ・クウは後ろを振り返えった。その目には、でっぷりと太った、中年男が映り込んだ。 「ヤッパリ、ジャイか!ジャイ・アンフツ。」 ゴ・クウは嬉しそうに、その名口にした。 「こんな所で、珍しいな。」 ジャイ・アンフツがにこやかに、近寄ってきた。  ジャイが差し出した手が、ゴ・クウに触れる寸前、 「ひょおぉぉ!岩砕脚!」 と、叫んで、ゴ・クウの後ろ回し蹴りが、ジャイ・アンフツの眉間に飛ぶ。 「フッ!」 その蹴りを紙一重で交わし、ジャイのゴツイ手刀をゴ・クウの顔面に叩き込む。 パンッ!!! その手刀を、ゴ・クウが左の拳で、受ける。  二人の、気合あふれる足刀と手刀は、ホールのフロアに、ただならぬ緊張感を漲らせた。 鋭い眼光が、お互いを射る。 「腕は落ちてねぇな!」 そう言って、ゴ・クウがニッと笑う。 「オメェも、相変わらずだな。」 そう言ってジャイも、ニヤリと笑った。 「よう、飯でも食わねえか?奢るぜ!」 ゴ・クウがジャイを、飯に誘った。 「お?良いのか。」 ジャイが、これでもかっ!と言うくらいの、笑顔で答える。 「遠慮するナイ、どうせ払うのは……。」 「シャ・カの旦那さ!」 二人は同時にそう言って、高らに笑った。  ホール横のレストランに、ジャイとゴ・クウが入って行く。  すると、イキナリ凄まじい怒号が、飛び交っていた。  何事かと中を覗き込むと、大柄な男が、派手に暴れている。  ゴ・ノウであった。  ゴ・ノウの周りに、5・6人の男達が伸びている。それでもまだ、5人くらいが、ゴ・ノウの周りを囲んでいる。 「うりゃあぁァァっ!」 ゴ・ノウの正面にいた男が、怒声をあげて、飛びかかった。  その男は、飛びかかると見せかけて、ゴ・ノウの足元へタックルを敢行した。  しかし、ゴ・ノウは其れを読んだかの様に、下段蹴りを男の顔面に叩き込む。  そのまま回し蹴りを、残りの男達に食らわせようとした。  バシッ!  ゴ・ノウと男達の間に、小柄な男が割って入り、ゴ・ノウの蹴りを、受け止めていた。  ゴ・クウであった。 「オイ!何をやっている。」 ドスの効いた声で、ゴ・ノウを睨む。  その途端、空焼きしたフライパンみたいだったノウの顔が、見る見る青くなって、その場にうなだれる。  当然ゴ・クウの恫喝は、その場にいた全員に放たれる。全員が、まるで練習していたかのように、動きを止めた。 「良かったぁ。流石、クウの兄貴。」 ゴ・ノウの後ろから、陽気な声が飛んてきた。ゴ・ジョウであった。 「ジョウ!何処へ行ってた?」 ゴ・クウが、叱責する。 「ハハハ、御免よ。ちょっとトイレに行ってるスキに、こんなんなっちゃって……。」  ちょっと、照れながら言う。 「ノウ!何があった?」  ゴ・クウはノウに向き治り、詳しい話を聞こうとした。  すると其処へ、数人の揃いの制服を着た男達が、笛を吹きながら乱入して来た。  警察である。 「ゴ・クウ!退散しよう。」 ジャイ・アンフツが、ゴ・クウを促した。  ゴ・クウが、ジャケットのポケットから小さめのピルケースを取り出し、そいつを床へ放り投げた。 パンッパパンッ!シュッパー! けたたましい破裂音とともに、煙幕がレストラン中に充満する。  ゴ・クウは、ノウやジョウに合図して、そうそうにレストランを後にした。  シティホールから可なり離れた、小汚い居酒屋に、ゴ・クウとノウとジョウ、ハン・クム。そして、ジャイ・アンフツが、ヒソヒソと話し込んでいる姿があった。 「だから兄貴よう、本当によく分からないんだ。」  ゴ・ノウが半泣きで、ゴ・クウに事のあらましを説明している。  ゴ・ノウが言うには、レストランで食事をしていたら、イキナリ数人の男達に囲まれて、気がついたら大殺陣回りをやらかしていたという。 「変だな。」  ゴ・クウが、ポツリと呟く。  そう、変なのだ。  ゴ・ノウがいくら気が荒いとはいえ、機動特殊部隊の、精鋭である。 ちょっとや、そっとの事で、我を忘れるほど、ヤワじゃない。 「ノウ、もうちょい詳しく、事のあらましを説明してくれるか?」 ゴ・クウが、ノウを促す。 「だから、レストランに入って、料理が運ばれて……。」  ノウの前に、料理が運ばれて、ちょっとしてから、ノウ達のテーブルの例の男達が集まって来たと言う。 「あっ?そう言えば、クム嬢にコナ掛けて来た奴がいたっけ?」  レストランに入って直ぐに、やたら気障な奴が、ハン・クムの所にやってきて、クムを口説きに来た。 「ちょっと腹に来たんで、思いっきりどやしつけてやったんだ……。」 と、そこまで話して、 「おい、その気障な奴って、どういう感じだった?」 ジャイ・アンフツが、話に割って入った。 ジャイに言われるがまま、ノウはコレコレああでこうで、と、詳しく話した。 「あぁ、ジンだ!ジン・クレツだ。」 その、ジャイの言葉に、 「ジン・クレツてーと、あのジンか?」 ゴ・クウが、茶々をいれる。 「そうだよ、十年前に例の事件で、西部軍を追われた、ジン・クレツだ。」 ジャイが苦々しい顔で、そう言った。 「あいつ、生きてたんだ!」 ゴ・クウも、苦いものを吐き出すように言った。  ゴ・クウもジャイ・アンフツも、十年前までは、西部治安軍に席をおいていた。 「ノウは知らないだろうが、西部治安軍で、ジン・クレツと言えば、知る人ぞ知る、超ブラックなやつだった。」 ゴ・クウは、更に嫌な顔をした。 「でも、あの場には居なかったな?」 ゴ・クウは、さっきの場面を、思い返した。 「ジンが居たら、俺も一発!いや、2・3発は、食らわしたかった!」 ゴ・クウは、右の拳を叩いた。 「そうか、ジンはノウの事を知らないから、……。」 と、ジャイが、納得した。  取り巻きが多勢居たら、多少の巨漢が相手でも、手を出したくはなるか。  無論、クムの事を、である。  ゴ・クウがその場に居たら、どうなったかは、神のみぞ知る。 「さっきから、気にはなっていたが、ゴ・クウ、お前さんが女連れとは、珍しいな。しかも、こんな別嬪さん。」  ジャイが、クムを舐め回すように見ながら、聞いてきた。 「この方を、ガロン研究所に運ぶのが、今度の任務だ。」 「この方を?と、来たか。しかもガロン研究所!」 ジャイは少し驚いて、 「と、言うことは、此方のご婦人は、異人さん?」 クムの見た目が、あまりにも普通なので、貴重な異人か?と、ジャイは考えた。 「任務なんで、詳しい事は言えない。だが、お前さんが考えている事より、倍以上厄介な任務なんだぜ。」  ゴ・クウは、ジャイに神妙な顔つきでそう言った。 「美人さんの護衛が、厄介な任務?」 ジャイの顔が、輝いた。 「だから、お前さんの思っている様なもんじゃ無いって。」  ゴ・クウは、呆れたように言った。  「これ、ジャイとか言ったか?一つお前様の未来を、占ってしんぜようか?」 ゴ・クウと、ワチャワチャやっているジャイに、クムが話し掛けた。 「おや?お嬢さん、何を占ってくれるんかな。」  ジャイは、からかう様な口振りで、クムに返事をした。 そんなジャイの返事を、サラリと流して、クムは髪の毛を束ねている、鼈甲の簪を引き抜いた。  その簪を、酒を注いである碗中に差し込んで、人差し指で、その簪を軽くはじいた。  すると簪が、碗の中で、くるくると回転する。  奇妙な事に、その回転運動が、有り得ない時間続く。 そして、イキナリ停止した。 「なるほど、南か。」 クムはジャイに、 「お前様は、我らと同行が吉。と、出たぞ。」 クムのその占いに、 「まぁ、南と言えば、ガロン研究所か!俺も南に商用があるから、吝かでは無いが……。」  そう言いながら、ジャイはチラチラゴ・クウの方を見る。  何かを察して、更に何かを思ったゴ・クウは、 「分かった。ガロン研究所まで同行するなら、いい話をしてやる。」 そう言った。 「兄貴、良いのかい?」 ちょっと心配気に、ノウが口を挟む。 「良いんだよ、ガロンまでの旅は、まだ先がある。人数の多いほうが、道道安心だ。」 「それで、良い話しって言うのは?」 ジャイが、待ちきれないように言う。 「実はな……。」  ゴ・クウはジャイに、ガロン研究所に行く途中で、キンギン鉱山に寄る事を話した。  キンギン鉱山は塩鉱山で、この地方全域の塩を賄っている。  この鉱山を取り仕切っているのが、ゴルジル兄弟商会と言う、なんと個人経営の会社なのだ。  一応キンギン鉱山は、西部に所属しているのだが、南部にも近いため、しかも塩と言う貴重品を扱うため、南部と西部の共同管理になっている。  しかし何故、この鉱山が個人経営の会社が取り仕切っているのかと言うと、元々この鉱山を発見したのが、ゴルジル商会の創始者、ゴル・モン男爵と名乗る西部と南部、両方に顔が効く人物だった。  そのキンギン鉱山で、何やら問題が起きている様なので、西部と南部の共同調査団が組織され、調査に向かったのだが、何かハッキリとしない報告書が上がって来たので、隠密の調査班が送り込まれた。  その、隠密調査班からの報告が来ないので、ゴ・クウ達が、様子を見に行くことになった、と言う。 「塩か!」  ジャイの目が、ピカリと光った。  塩の利権は、莫大な利益である。  塩は、生活に欠かせない。  単に調味料としてではない、生きる為には、塩分は欠かせないし、加工食品には、必ず塩が欠かせない。  それだけでは無い、工業には化学反応を促す為に、塩を加える。  町中に雪が降ると、融雪剤に塩は欠かせない。  現行、並塩(未精製)は1Kg86円(税抜)だが、塩鉱山で1Kgの採掘単価は僅か1銭である。  穴を掘るのは大変だが、鉱脈を探し当てれば、後は掘削するだけ。  塩の取れない地方に持っていけば、その利益は、計り知れない。 「塩商いは、旨みも多いが、リスクもデカイ……。」 ジャイが胸算用を、し始めた。 「この話を、物に出来るか出来ないかは……。」 ゴ・クウが釘を刺そうと、口を挟もうとすると、 「分かってるさ、みなまで言うナイ。」  ジャイは、ニヤリと笑った。
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