第四章 ハン一族

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第四章 ハン一族

 「クウ殿、ガロン研究所に行く前に、ちと、寄ってもらいたい所があるんだがの?」  ハン・クムが、真面目な顔で、懇願してきた。  クムが言うには、南部のガロン研究所に行く前に、南部の南西部にある、ギュ農園に、寄って貰いたいと言う。 「シャ・カの旦那に聞いたが、彼処には何も無いって?」 「分かってはいるのさ、クルサルがやって来たから……。」 クムが言うには、クルサルと言う魔物が、農園を破壊したと言う。 ハン一族は、約5百年前に、当時のギュ農園の当主、ギュ・ムラによって連れて来られたという。  ギュ家とハン一族は、適当な距離を持って、暮らしていた。  ハン一族には、占いと言う生業が有って、これが大変よく当たったと言う。  ハン一族の、当時の族長アイオウが、今年は米が豊作になるとか、何何が流行るとか。これをギュ家に伝えて、ギュ家を助けていたと言う。  それから数百年、ハン一族とギュ家は、穏やか暮らしていたらしい。  それが今年の始め、ハン・クムの占いに、厄災の卦が出てしまった。   それを見た今代の族長コードが、ギュ家には黙って、ギュ農園を出てしまった。勿論、全一族を引き連れてだ。 「今思えば、あの選択は無しだった。」  ハン・クムが、ちょっと悔しそうに言う。 「少なくとも、ギュ家に一言あっても良かったんじゃあないか?」  ちょっと沈黙があって、 「前から気になって、聞きそびれていたが、他のハン族の人は、どうなっている?」  そう、ゴ・クウが聞いてくる。 「私等が、農園を出たあの日、厄災は直ぐにやって来た……。」 コードとロサ、そして娘のニハが、厄災に巻き込まれた。 「ちょっと、待ってくれ!」  ゴ・クウがクムの話を遮る。 「コードとロサの娘って、貴女じゃないのか?」  ゴ・クウは、驚いている。  今までハン族の、最年少の少女?と思っていた人物が、実は最高齢の、女性だったのである。 「ちょっと誤解が、あったようだの。私は、ハン・クム。ハン一族の前族長サガオンの妻だったものじゃ。」  ゴ・クウはひっくり返っていた。 そして、恐る恐る聞いた。 「すると貴女、一体全体幾つになるんですか?」 「私は今年で、365歳なるかな?」 「ええー!!」  イキナリ、素っ頓狂な叫び声が、ドアの方から飛んできた。  全員が、その声の方に注目した。  そこに立っていたのは、ジャイの手下のトウだった。 「なんだ?トウじゃないか。」 ゴ・クウが、何か用かとばかり、近寄る。しかしトウは、その場にへたり込んでしまった。 「何だよ、何か用か?」 ゴ・クウはトウの肩を、揺さぶってみた。ボンヤリとした目が、ゴ・クウを見上げでいた。 「おい!しっかりしろ。」 ゴ・クウはトウの頬を、軽く叩いた。 はっとした感じで、我に返ったトウは、 「ああ、ゴ・クウさん。親方から、良い知らせです。」  そう言って、ゴ・クウに手紙を渡した。その手紙を読んで、 「お?ジャイの奴、気が利くぜ!」  そう言って、ノウとジョウに、その手紙を、見せた。  その手紙には、ゴ・クウ達が乗ってきた貨物車を、ジャイが買い取って、その代わりに、鉄馬ニ台と砂漠橇を廻してくれる。と、してある。 「鉄馬も有り難いが、なんと言っても、橇が有難い!」  ゴ・クウが破顔して、喜んでいる。  西部と南部の間に横たわる、巨大なゴル砂漠。昔から旅の難所で、何百と言うキャラバンが砂漠に消えている。  ところが、砂漠を旅するキャラバンに、最近朗報が舞い込んだ。  砂漠の橇が、開発されたのだった。  ソリと言っても、馬やラバが雪上を引くやつとはちょっと違って、それ自体が自走するタイプである。  所謂、ホバークラフトに近い。  ゴル砂漠の砂の性質のせいか?普通の車では、直ぐにスタックして、楽に進まない。 特殊なスパイクタイヤでなければ、往生してしまう。  ゴ・クウたちも、あの貨物車を動かすにあたり、特殊スパイクタイヤと、ナッタ族のナビが無ければ、あっと言う間ににっちもさっちも行かなくなっただろう。  トウは、明日の朝でも良いものの、何故か夕暮れ近くにやって来たのだ。    ゴ・クウ達が、トウの持ってきた鉄馬と橇の調子を点検している。  此処までやって来たのだから、ある程度は調子が良いはずだが、其れでも自分達で点検しなければ、気が済まないのだろう。  部品の一つ一つを、徹底的に見て回った。  その様子を見ていたハン・クムに、トウが仕切りに話しかけている。 「ねぇクムちゃん、さっきの話は、本当なの?」 「さっきの話し?」 クムがキョトンとしている。 「あれさ、クムちゃんの年が、356歳って?」 ハン・クムは少しイラッとしたが、それはオクビにも出さないで、 「ああ、本当の事さ。」 「だって、356ったら、ババァ通り越して、干物。いやいや、ミイラじゃんか!」  トウの開けすけな物言いに、軽いため息をついて、 「なぁ、トウ殿。お前様の目で、私はどう見えるかな?」  クムは、目に力を入れて、トウを見た。クムの深い碧い瞳が、トウを射竦める。  トウが、ジリッと後退る。  それを見たクムが、クスクスと笑いながら、 「トウ殿、私はもうお休み致すよ。」 そう言って、クムは部屋に引き上げていった。  そのやり取りを傍で見ていたゴ・クウが、 「よう、トウ。クムが気になるなら、遠慮はいらねぇ、夜這いでもなんでも、しねぇな。」 と、煽る。 「クウの兄貴、そいつは……。」  ノウが、ゴ・クウの物言いに、不満を鳴らす。  確かにゴ・クウの物言いは、ちょっといただけ無い。が、相手は見た目娘っ子でも、300歳を遠に越えた、菩薩が如き猛女である。 「俺達が束になっても、軽く往なされてしまうよ。」 と、ゴ・クウは、空を見上げた。  だがトウは、我が意を得たり、ばかりに、クムの後を追うのであった。 「アノヤロ!」 ノウがトウに、罵声を浴びせようとするのを、ゴ・クウが止める。 「兄貴……?」 「トウには悪いが、ちょっと確かめたいんだ。」  ゴ・クウは例の奇病の正体が、本当にハン・クムに起因するのかが、知りたかった。  馬と橇の手入れを終えて、ゴ・クウ達は宿屋の部屋へと、戻っていった。 「と、その前に……。」 ゴ・クウは、自分達の部屋へと行く前に、クムの部屋を訪ねてみた。 「クム殿、起きてますか?」 ゴ・クウは、ちょっと大きめな声で、クムを呼んでみた。 「?変だな……。」 返事が無い。  ゴ・クウは、部屋の扉に手を掛けた。ゆっくりと、手前に引く。  すうっと、手前に動いた。  薄暗い部屋の中に、誰かが倒れている。入口の側にあった、灯りのスイッチを叩いてみた。   パッと部屋が明るくなり、部屋の中に倒れている者の正体が明らかになる。トウであった。  トウが、下半身丸出しで、部屋の真ん中で伸びているのである。 「おい、しっかりしろ!コラ!」 ゴ・クウは、またまたトウの頬を叩いて、トウを起こそうとしたが、なかなか起きようとしない。  ただ何か、夢を見ているようで、何か喋っている。 「あ?何だ?」 ゴ・クウは、トウの口元に耳を近づけた。 「好きです……、クム……。」 「ン!だよ。」 ドスン。 ゴ・クウはトウを、ベッドに放り投げた。其れでもトウは、起きなかった。 「そう言えば、クム嬢は?」 部屋の中に、ハン・クムの姿が見当たらない。  ゴ・クウは、トウとクムが事を成す時間を考えて、間を置いてクムの部屋を、訪ねてみた。  どうやら、事は成ったようだが、肝心のハン・クムの姿が見当たらない。 「嫌な予感がするな。ノウ、ジョウ!クム嬢を探すぞ。」 そう言って、ゴ・クウは部屋を飛び出した。  一応帳場で、宿を出る告げことを、部屋に病人が出たので、医者を呼ぶよう示唆。更にジャイ・アンフツと、シャ・カ執政官に連絡を入れてくれる様に頼んだ。  取り敢えず、宿屋の周りを調べて、何か痕跡でも無いか?と見て廻る。 宿屋の裏手、丁度クムの部屋の真下あたりで、クムが身に着けていた、カンザシが見つかった。 「クウ兄貴!アレ。」 それと同時に、ジョウが空を指差して、叫んだ!  南の空、月が煌々と輝く空に、大きな鳥?の様な影が三つ、飛んでいる。  そのうちの一つが、何かをぶら下げた様な形に見える。 「アレ!クム嬢だ。」 素早く、望遠鏡を覗いたノウが、そう叫ぶ。 「ノウ、ジョウ!追うぞ!」 ゴ・クウはそう叫ぶと、鉄馬に跨った。
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