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第六章 ギュ・農園
ゴ・クウ達一行は、ギュ・ミャオの計らいで、ギュ農園の母屋である、シャトー・ギュの屋敷に、泊まる事になった。
「いやぁ、大変にご馳走になっちゃって……。」
ゴ・ノウが変にはしゃぎながら、感謝の意を述べていた。
確かに、多いに歓待された。
前触れもなく、突然やって来た珍客には、過ぎた接待である。
「そう言えば、シャ・カ執政官から、ギュ農園は、壊滅した。って聞いたんですが?」
と、ゴ・クウが切り出した。
「それはですね、……。」
ギュ・ミャオが言いかけたところを、背の高い初老の男性が、割って入って、代わりに答えた。
「此の屋敷は、一月前に近隣の村から移築したものです……。」
男性の話しによれば、今年の初めに、厄災はやって来たが、時期が幸運だった。
先ず、農閑期だったこと。
使用人達は、暮れから新年にかけて、休暇を取って、屋敷や農園には居なかったこと。
更に、元々改築を検討していて、家の者も粗方余所へ出ていってて、農園に残っていたのは、当主のギュ・テム。それに娘の、ミャオ。それに使用人のカンタ。 この三人しか居なかったのだ。
「と、言うことは、貴方は…?」
ゴ・クウが驚いて、口を出す。
「私はここの当主、ギュ・テムです。」
此処で初めて、その初老の男性は、自らを紹介した。
「弟さんのカーク氏から、全く連絡が取れないって、伺っていたんですが……。」
ゴ・クウの質問に、テム氏は軽く笑って、
「弟は、大袈裟な性格なので…。」
そう言うと、笑いながら農園の話を始めた。
ギュ家はこの地に、700年前から住み着いていた。
始祖については、諸説有って分からないが、約500年前の中興の祖、ギュ・ムラからが、正史とされた。
「そのギュ・ムラが連れてきたのが、反人間のハン一族だった、そして……。」
其れから500年、ある程度の繁栄を享受してきた。
「ねぇ、行った通りでしょ。」
「はい、姉様。」
ギュ・ムラの話の横で、ハン・クムとギュ・ミャオが、キャイキャイと仲の良い姉妹の様に、話している。
端から見たら、ギュ・ミャオが、年下の妹の話を聴いてやっている風だが、実際には15倍以上年上のハン・クムが、ミャオの話し相手をしているのである。
「一昨年、クム姉様の占い通り、用意をしていて、本当に良かったです。」
ギュ・ミャオは、実の姉の様に、母親の様に、ハン・クムを尊敬していた。
ミャオとクムの話を聞いていて、ゴ・クウはふと、思い出した。
「そう言えば、クム殿、クルサルと言う魔物は?」
其れを聞いて、ハン・クムは表情に厳しさ浮かべた。
「来るよ!あいつらは、必ずここに来る。」
そう言うと、ハン・クムは立ち上がり、ゴ・クウの横に立った。
「でも、今回は大丈夫。今度は大地の牙は、入ってこないし。」
そう言って、ゴ・クウの手に手を重ねた。その手は、かなり熱かった。
「何よりも今度は、貴殿方がいる。」
そう言って、ノウやジョウへも、視線を流す。
「任せてください!」
ノウが、生き生きと胸を張った。
その夜は、テムとミャオ嬢の計らいでギュ家に宿を、とらせてもらった。
地方の豪農だけあって、天井の高い広々とした部屋を宛がわれた。
ゴ・クウ達は思い思いに、寛いでいた。
使用人のカンタが、酒と肴を差し入れてくれた。
さっき聞いた話だと、一月前に他所にあった物を、移築したそうで。なるほど、壁は塗り直して、敷物は新しいものが敷かれているが、柱や梁、天井の材なんかは、時代がついて良い味を出している。
コンコン!
ゴ・クウ達の部屋へ、当主であるギュ・テムごやって来た。
「ゴ・クウ殿、ちょっと話しがあるのですが……。」
ギュ・テムは、今にでもやって来る、クルサルの驚異に、話し合いたいと、言ってきたのである。
「クム殿の話だと、明日辺りクルサルが、やって来るらしいのすが。」
ギュ・テムが神妙な面持ちで、ゴ・クウに話しかける。
「其れについては、クム嬢の方が詳しいんじゃあ、ないのかい?」
ゴ・クウの問いかけに、テムは言いよどんだが、それでも協力をと、食い下がる。
「大体、クルサルって魔物がなんかのか、俺は分からないのだが?」
ゴ・クウの問いに、テムは重い口を開いた。
「クルサル言うのは、この地方の伝承で……。」
ギュ・テムがポツリポツリ、話し出した。
ギュ・テムが言うのには、クルサルと言う魔物は、この地方に古くから伝わる伝説で、ギュ・農園に入る手前の、雄牛山に住んでいたと言う。
ギュ家が、最初に入植した時は、地域住民達とのイザコザは、あまり無くて。まあ、入植した所が村の外れで、尚且、何の価値もない荒れ地だった為、村人達は、直ぐに出ていくだろうと、高を括っていたと言う。
最初は苦しかったらしい。
畑を耕作するにしても、丸っきり畑に適さない大地。
唯、この地にのみ自生する、クラと言う米が、ギュ家を支えていた。
転機が訪れたのが、何代目かの当主、ギュ・ムラの登場であった。
ムラはある日、或る行商人から妙な噂話を聞く。北の砂漠地帯を越えたところに、妙な一族が住んでいて、旅人相手に、占いをして暮らしている。
ところがこの一族は、度々居場所を変えるので、逢うのが難しい。
だが、占いは一級品、と言うか神がかっていて、絶対に外さないと言う。
ムラは、「これだ!」とばかりに飛び出して、その一族を探しだした。
元々、商売才覚が有ったムラは、行商をしながら砂漠を渡り、土地々々の噂を頼りに数ヶ月、やっと噂の一族を見つけたのだった。
「なるほど、その一族が、ハン一族だったんですね。」
ゴ・クウが相槌を打つ。
「ギュ・ムラと、ハン一族の間に、どう言う遣り取りが有ったかは解らないが……。」
ギュ・テムはギュ家の歴史を、滔々と語った。
「今の話ですと、クルサルは全く出てきませんが?」
テムの話の腰を折るように、ゴ・クウが質問した。
「私たちも、クルサルは全くの伝説で、実在しないのでは?と、高を括っていたのですが……。」
異変が起こったのは、昨年の秋口であった。使用人達の間で、夜中に不審な物音を聞いた。あり得ない高さに、不気味に光るモノを見た。屋敷の裏手にある藪から、異様な匂いがする。
そんな事が頻発したので、テムはハン一族に占って貰うことにした。
その時占ったのは、現族長のコードであった。
今の占い担当は、ハン・クムであった。しかしクムは、その時農園を出ていて不在だったので、族長のコードが、占いをした。
「その時コードは、農園のあちこちで起きている異変は、此の地方の魔物の仕業である。そう言いました。」
ギュ・テムは、ちょっと苦いものを吐き出すように、語った。
コードの占いはあやふやで、テムの欲しい答えが得られなかった。
「詳しい事は、クムが帰ってから再度答えよう。其れまでは、此の護符を農園周囲と、家屋に張っておきなさい。」
コードは、御守りと称して、怪しげな護符をテムに渡した。
テムは、渋々その護符を受けとって、引き上げた。
暫くして、ハン・クムが帰ってきたと言う知らせを受けて、ギュ・テムが再び占いをしてもらおうと、ハン一族を訪ねたところ、ハン一族はもぬけの殻で、行方不明となっていた。
「そしてその直後でした、厄災が襲って来たのは……。」
ギュ・テムが言うには、いきなり大地が裂けたと言う、巨大な振動が大地を揺るがし、立木や雑木をなぎ倒し、大地を抉り回した。
その時ギュ・テムは見たと言う!
農園の上空を舞う、怪しげな鳥ともつかぬ何かを!
「アレこそが伝説に言う、クルサルなのか?と。」
ギュ・テムの話を一通り聞いて、ゴ・クウは口を開いた。
「実は俺たちも、襲われたんだ!」
ゴ・クウは、農園に来る途中、怪しげな鳥に襲われたことを、語り出した。
「そうなると、クルサルの目的は、ハン一族っていう事に、なりますか?」
ゴ・クウの話を聞いて、ギュ・テムはそう言った。
「そうなると、おかしな事が一つ。」
ゴ・クウは、持っていた杯の酒をぐっとあおって、深く息をはいた。
「ハン一族が、この地に来たのが500年前。その間にクルサルに、襲われたのが、今年の年明け、一回だけ。」
明らかに、おかしい。
「テムさん、他に変わった事は?」
ゴ・クウの問い掛けに、少し考えていたギュ・テムは、ハタと思い出して顔を上げた。
「そう言えば、去年の夏の終わりごろかな?妙な一団が、占いを受けにやって来ました。」
「妙な、一団?」
ギュ・テムが言うには、全員が軍服を着ていて、七人くらいで、一人だけ背広だった。その背広の男が、仕事の方針を占ってもらいたい。と、相談に訪れたと言う。
ゴ・クウは何かを感じ取って、
「テムさん、その男って、こんな奴じゃありませんか?」
そう言って、ジャケットのポケットから手帳を取り出して、その手帳から一枚の写真を取り出して、ギュ・テムに見せた。
「ああ、この人です。」
「やっぱり、そうか!」
なるほど、と、ゴ・クウは、写真を仕舞いながら、身支度を整え出した。
「ゴ・クウさん、どうしました?」
ゴ・クウの突然の行動に、ちょっと面食らったギュ・テムが尋ねた。
「テムさん、コイツは(写真の男)ジン・クレツと言って、かなり剣呑な奴でね。コイツが関わってるなら、今までの事は、合点が行くんだ。」
そう言うとゴ・クウは、ノウとジョウに、合図した。
二人とも既に、ジャケットを着用していた。
「ジョウ、おれと一緒に、屋敷周辺と、農園の探索。ノウは屋敷の警備。行くぞ!」
ゴ・クウの号令で、三人は部屋を出ていった。
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