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「わかりました」
鴉攻と言う男は葵の返事に唇の端で笑って見せた。
嘲り笑うような嫌なものだ。
握った要の手が教えてくれる。
落ち着けと、冷静になれと…
「せやったら、ここにおる碧刃と夫婦になって頂く」
どんな条件を突きつけられるかと思ったら、全く予想外のジャブが来た。
思わず碧刃と顔を見合わせる。
碧刃は意外だったらしく、豪快に首を振って見せた。
「それ、どんな冗談……」
本人も知らない、合意もない、明らかに身勝手な条件と言うことだ。
「冗談やあらしまへん。姫様には総帥となり、碧刃を夫とし、ここで暮らしてもらいます。碧刃の子を産んでくだされば、蒼麻殿との子を作っても構いまへん」
冷静に、なんて通り越して葵は唖然としてしまった。
『証』が出た事で要が危惧していた事態や、架南に強いられていた境遇、それをまざまざと見せられた、そんな気分だった。
そもそも、こんな手を使い人を操ろうとするのだから、まともな人物ではないのだ。
「それが何になるんですか?」
「一族の血を深められるんどす」
まともに対応するのが若干馬鹿馬鹿しく思えてくる。
(とにかくこの場は切り抜けないとなんだけど)
要が手をぎゅっと握ってきた。
先程より力がこもった指先に、安心する。
きっと要が受けた何らかの力は、時間の経過でどうにかできるものなのだ。
そして、ある程度動けると要が判断するまで、今の体勢を変えない。
時間を稼げばいい。
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