第5話 愁事

2/2
前へ
/35ページ
次へ
「………………ってか、さ」 寝室に戻るなり、呆れたような目の和希が口を開く。 「ロストバージン、だいぶ前だよな……」 「そ、そんなことダイレクトに言わないでよっ」 和希とは実の兄弟だと知る前から気を許していたし、実際そう言う類の相談もしていた。 だから和希が言いたい事はよくわかる。 「だってさ、反応がウブ過ぎ」 「わかってる……」 葵は頬を染めて椅子に座った。 和希が窺うように目を細め、そんな葵を眺めた。 「不調の、原因って…京都行き?」 意表をついた和希の問いかけに葵は返事に迷う。 なぜ和希が京都の件を知っているのだろうか。 和希は知らないものと勝手に思い込んでいた。 「誰から聞いたの?」 「あー、誰って、オレが言い出したし」 「和希くんが?……何で??」 和希がベットから背を離し、胡座をかく。 「口の管とれて、すぐに、アイツに頼んだ」 「アイツって要くん?」 和希は頷くと、自分の右手を眺めた。 「当分、使いもんになんねーし、けど、葵は守んなきゃだろ?」 気道熱傷への集中的な治癒は一先ず今日で終わる。 それくらい和希の回復は順調だ。 明日からは右手の治癒に取り掛かる予定だけれど、指先から肩口までの重度のⅢ度熱傷、感覚を取り戻すまで能力は使えないだろうと要は言っていた。 「アイツが、死ぬ気で守んのはわかってる、けど、アイツはさ、葵以外にも守るもんあるし、一人で全部は、無理じゃね?」 和希がそこまで考えているとは思っていなかった。 「だから、他に仲間いないのかって、どうにかしろよってさ」 「京都の分家を知ってたの?」 「知らね」 「無茶振りだね」 「だなー」 和希が笑うので葵も笑ってしまう。 「だからさ、行けよ、京都」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加