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第6話 寸刻
『後生やさかい、どうかお頼申します』
涙ながらに縋り付く白く細い指を振り切れなかった。
あれから、22年も経つ。
また京都に行くことになるとは…
京都行きは二転三転し、1週間揉めた末、和希だけを残し、旅立つことになった。
和希の回復をある程度まで進めたこともあり、葵の不安も減ったようだが、スローネを離れての数日間に緊張はしている。
要は、少し離れた木道散策路を歩く葵を眺めた。
昨日浜松を出て、京都で祥吾と満琉、篠宮を下ろし一路滋賀へと入った。
3人は交渉の為に分家へと向かった。
葵が散策路に座り込むのが見えて、要はそちらに向かう。
葵には今回の目的について、まだしっかりと話せていない。
口には出さないが、葵は疑問を抱いているだろう。
今朝の祥吾からの状況報告からしても、まだ折り合いがつきそうにない。
帰りの目処も立たなくなった。
「要くん、見て、なんか泳いでるよ」
近くまで行くと葵が湖面を指差した。
要は葵の隣に座る。
湖面を眺める葵の横顔を見ていると、不思議と気持ちが安らいだ。
風に吹かれカサカサと乾いた音を立てる落ち葉、忙しなく小鳥たちがさえずり、時折秋空を切り裂くようなモズの声が響く、水辺からは水音に混じるように水鳥が鳴く。
久しぶりにそんなものに耳を澄ませたかもしれない。
波乱に満ちた旅路になると覚悟したが、意外にも穏やかな気持ちになる。
束の間の、安らぎ。
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