第6話 寸刻

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「魚じゃない感じ、カワウソかな?」 胸をくすぐる葵の声に自然と頬が緩む。 「ニホンカワウソは2012年に絶滅種とされたから、イタチかヌートリアかな」 「え?カワウソって絶滅したの?」 「ひっそりと生きているかもしれないけれど」 人が見えているものは表面上の極一部だ。 天使えの一族にしても、人知れず存在してきたのだから。 「イタチかな?まさかのカワウソかな?要くん、能力で聞いてみてよ」 葵が要に向き直る。 「………聞く?」 冗談でも言っているのかと思ったが、葵の目は真っ直ぐで真剣だ。 「あ、聞くって言うか、水の中にいるし、輪郭で探る的な」 葵は手で形を表すように動かして解説している。 葵が言わんとしていることがわかり、要は思わず吹き出した。 「流石にそこまで万能ではないな」 「要くんならわかりそうなのに」 確かにそういう方向で能力を鍛えれば出来ないことはないのかもしれない。 能力は戦闘に要するもの、攻撃や防御を主に、トラップや探索にアレンジできればそれで事足りるものと考えてきた。 それだけに葵の発想は面白い。 「それを言うなら、葵の結界をうまく使うと捕獲が容易いよ」 「んー、できる気がしない」 葵が青ざめた顔を向けてくる。 大方、誰かの手首を切断した時のことを思い出したのだろう。 「大丈夫、側にいてしっかり仕込むから」 腰に手を回して引き寄せると、葵は薄っすらと頬を染め頷いた。 愛くるしい葵の仕草に微笑むと、目を逸らされる。 葵は未だに恥じらうことを失くさない。 「お、お手柔らかに……」 葵の手を握ると少し冷たい。 「車でお昼にしようか。話しもあるし」 「話って、分家のことかな?」 窺うように首を傾げ葵が眉を寄せる。 「話難いことなら無理しなくていいよ」 恐らく、何かしら勘付いているのだろう。 葵はいつも事を察し気を遣う、そしてそこに甘える自分もいる。 「今回はそうもいかない……」 話しておかなければ、また傷つけてしまう。 刹那、殺気が仄めいた。 距離はあるが、波動が強い。 「葵、後ろに」 葵を立ち上がらせ背後へと庇った直後に、熱の塊が飛んでくるのがわかった。 鋭く空気を切り裂き高速で放たれた炎 ─── (来たかっ……)
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