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第7話 火矢
要は何かを隠している。
(比較的いつも隠し事はあるけれど)
葵は散策路に座り込み、湖面を見つめた。
一族絡みで、しかも女絡みで、伝え難いことがあるのだろう。
隠している罪悪感と、伝えられない歯痒さ、それを打ち消す様な激しい熱情。
昨夜はそんな愛撫だった。
(あ、でも、シチュエーションに萌えたかも?)
葵は横目にキャンピングカーを見る。
行為を思い出し赤面し、慌てて顔を振った。
(いやいやいや、隠し事が…)
そもそも隠し事はあって当然なのだろう。
抱えているものが多い、抱える過去も多い、一度に打ち明けられても受け止め切れる訳がない。
どうせ一緒に生きる過程で少しずつ知ることになる。
(明らかになった時にそれなりに騒いで、受け止めよ)
葵としては目の前にある不安で手一杯なのだ。
留守番の和希は大丈夫なのか?
いつまでここにいるのか?
橘詠一はどうしているのか………
だから、話があると言った要に「話難いことなら無理しなくていいよ」何て、大人な余裕発言をかましてみたが、間違いだった気がする。
葵は要の背中に隠れ、押し寄せる不安を噛み締めた。
要から遅れてはいたが、葵も何かを感じた。
左前方、大気を裂くスピードで迫る熱がある。
要が右手を振り上げ、水を呼ぶと飛沫を上げた水柱が湖面から弧を描いた。
水で壁を作るつもりなのだと気付きながら、葵の結界に頼る気がない要の意志が見える。
使い熟す自信はない、けれどもしもの時は要の許可なく結界を発動させるつもりで葵は息を整えた。
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