第8話 双子

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第8話 双子

(………これだ、要くんの隠し事) 『母はんを裏切って捨てた男』 その言葉だけとると、少女の母親と要が過去に関係を持っていたのだろう。 別に隠し事があることは否定しない。 隠して当たり前だとも思う、けれど、容認するわけではない。 感に触るものは感に触るわけで…… ゆっくりと振り返る要を、両腕を組んで葵は待ち構えた。 「さっき話そうと」 咎める様に見上げる葵に要が声をかける。 「わかってる」 「いや、多分勘違い」 「大丈夫」 「……葵、それ怒ってるよな」 要の瞳が困ったように細められた。 「ちょい待ちっ」 青年がおたおたと割り込んで来る。 「朱奈のやつ、誤解してるんや。母はん死んで動揺してるさかい」 まあまあ、と落ち着かせるように向けられる手の平には、いつの間にか刀がなかった。 「馴れ合うな、碧刃!そいつは羊の皮を被うた狼やで」 キャンピングカーの上で少女が喚いている。 小柄な身体にハスキーな声が相成ってキャンキャンと吠える小型犬みたいに見えてくる。 「庇いだてするならあんたも敵や!丸焦げにしたる!」 少女が両手の平を合わせると、手の平の間で炎が上がった。 離されていく手の平の間で炎が長い棒の様な物へと形を成す。 炎の具現化、少女が両手で構えたそれは弓。 赤黒く燃えた弓に、火を噴く弦、燃え盛る火矢、そして怒りに燃える少女の瞳。 「朱奈、待ってや!落ち着いて」 青年が素早く少女と間合いを詰める。 「蒼麻はんを責めるんは間違うてる。なんか事情があったんやって、母はんも言うとったやろ!」 青年が両手を合わせ引き離すと、手の平の間に刀が現れた。 ぶんっと刀を振ると水滴が飛び散る。 「やかましい、せやったら何で分家に来いひんの?!」 少女が火矢を青年に放ち、青年が刀で打ち消した。 「そやさかい、そらなんか事情が」 「母はんを弄んださかい出禁なんやで!分家に来れへん事情がそれ!わからへんのか、碧刃」 「姫さんがおるのにそないな下衆なこと連発しなや!」 「どこに姫さんがおるん!目ぇ腐ってるんやろう、碧刃」 火矢と水刀の攻防戦が繰り広げられ、どことなく緊張感が薄れていく。
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