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近江の国伊香の郡にある余呉の湖に天の八女、ともに白鳥となって天より降り、湖辺で水浴をせし。
この時、伊香刀美、西の山でこの白鳥を見て、この形もしや神人と疑い、浜辺に往って見るに、真にこれ神人なりき。
伊香刀美、感愛を生こし、白き犬に妹の天の羽衣を盗ませし。
姉の七人の天女は天上に帰りしが、妹は羽衣無く天上に帰れず。
伊香刀美、この天女と夫婦となり、男女二人ずつをもうけし。
兄の名は意美志留、弟、那志等美、姉、伊是理媛、妹、奈是理媛。
これは伊香連等の先祖でなりき。
後に天女、羽衣を探し当て、天井へと帰りし。
伊香刀美は一人空しく床を守り嘆くことしきりなし…
『近江国風土記逸文、羽衣伝説』より。
古の説話に、今を想う。
説話が真実かの追究は意味を成さないほどの遥か昔、語り継がれる物語には、天女や神が記されている。
光が照らし出すものが限られているように、そこにあるのは、ほんの一部。
記されていない物語が星の数ほど、ひっそりと息衝いている。
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