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ハンドルを握りながら、要は後ろから聞こえる笑い声に耳を澄ます。
碧刃はすぐに葵に懐き、朱奈も毒舌を浴びせながらも葵のことは気に入ったらしい。
「蒼麻はん、とりあえず分家に来てくれまへんか?朱奈もそれでここは一旦おさめてや」
碧刃が提案した妥協案は、それだった。
朱奈がおとなしくそれに納得したあたりからしても、恐らく一通り茶番なのだ。
あどけない顔をして、なかなか侮れない。
信号で停まると、碧刃が助手席へと移動してきた。
「蒼麻はん、運転代わりまひょか」
「いや、いい」
「えらいすんまへん」
人当たり良く礼儀正しい好青年、能力の安定性は高く具現化も精巧、剣技も秀でている。
分家で英才教育を受けただけあって、良く仕込まれている。
「蒼麻はんは、今高校生の設定で免許あるん?」
「年齢で言うと19だから免許は持ってるよ」
「そうなんや、俺らと3つ違いになるんやな。何や複雑やわ……」
「確かに、複雑だな」
キャンピングカーは京都市内外れにある分家を目指す。
碧刃と朱奈がどこまでを知り、今回のことに加担しているか、そこはまだ見えてこない。
ただ、朱奈より碧刃のほうが一枚上手だろう。
「姫はん、可愛らしい人どすなぁ」
「………姫ではない。葵、日向 葵だ」
横目に碧刃を一瞥すると、碧刃は意外そうな顔をしている。
「あ、そうやった、葵はん」
だがすぐに、あははと笑い笑顔を作った。
「葵は、分家には入れない」
「え?入れへんって、どないするんどすか?」
碧刃が運転席に向かい身を乗り出してきた。
想定が崩れたのか、若干の焦りが浮かぶ。
「車で待っていて貰う」
「そないな、可哀想どすえ、待たせるなんて」
「可哀想?オレからしたら、画策された汚い部分を見せつけるよりマシだと思うが」
ぐっと、碧刃が言葉を飲み込んだのがわかった。
「分家に連れて行きたいのはオレじゃなく、葵」
横を見やると碧刃と目が合う。
虚を衝かれ、円らな瞳で黒眼が揺れた。
「鴉攻に何を言われたか知らんが、葵はやらない。一瞬足りとも渡さない」
碧刃は動かしているのは、分家首領の鴉攻で間違いない。
その狙いも、手に取るようにわかる。
「マジで、侮れへんわ………」
動揺をそのままに碧刃が深く息を吐きシートに背を預けた。
「観念するで、俺じゃ歯が立たへんし」
笑顔の消えた碧刃の顔はどこか拗ねた子どものように見える。
「蒼麻はんには嫌われたないさかいに」
本音には聞こえるが、真意はわからない。
嫌われはしても好かれる事は何一つしていないのだから。
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