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第10話 キス
「随分と楽しそうでしたね」
助手席に座ると要が顔を向けずに声をかけてきた。
「要くんも随分と碧刃君と仲良しね」
つい棘のある口調になってしまう。
(ダメだ、平常心、平常心………)
葵はシートベルトを締めながら、そっと息を吐いた。
朱奈と碧刃は22才だった。
妊娠時期を考えると23年前くらいだ。
要が後腐れない相手と遊ぶのを止める前のこと。
女遊びの過去は付いて回る。
覚悟はしていたが、その相手の子どもと知り合うことになるとは考えていなかった。
『母はんを裏切って捨てた男』
あの言い回しが、喉に刺さった小骨みたいにじりじりと胸で疼く。
朱奈は酷く要を憎んでいるし、碧刃は要に憧憬の念を抱いている。
何だろう、それが思い浮かべたくない可能性を高めているようで、気持ちが妬けていくような気がするのだ。
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