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キャンピングカーが焼杉の塀に囲まれた大きな屋敷の前で停まる。
四塚と言う表札が見えた。
「蒼麻はん、裏回ると駐車スペースあるさかい、そっち回ってな。朱奈、先に入って裏開けて」
碧刃が運転席のシートに手をついて顔を出す。
「なんで私なん?」
「文句言わんといて」
「しゃあないな………」
朱奈が降りて、要は車を動かす。
「誘導するさかい」
キャンピングカーともなると通れる道は限られるらしく、少し回り込むようだ。
ハンドルを切れるかどうかの狭い道を要は器用に進んでいく。
運転をする要にはどうしても違和感を感じてしまい、葵はしみじみと眺めてしまった。
やっと辿り着いた屋敷の裏手は駐車スペースと言うより、広々とした庭園だった。
前世で見た母屋の中庭に少し似ている。
「こないな大きい車、ここくらいしか停められへんさかい。……ほな、行きまひょか」
碧刃が緊張感を滲ませ、要の顔を窺った。
「先に降りていてくれるか」
「ええで、ほな外にいるさかい」
シートベルトを外しながら要が碧刃を見送る。
二人が何かを示し合わせているように見えてしまう。
「中には祥吾さんたちがいるんだよね?」
「今から迎えに行ってくるから、葵はここに」
「ここで待つの?」
ぼんやりとした疎外感に葵は俯いて眉を寄せた。
「終わったらきちんと説明するから」
「出禁の理由?」
呟くように問いかけると、要が葵に覆い被さるようにシートに手をつく。
唇が触れた。
重ねるだけの口付けのあと、鼻先が触れる距離で要が見つめてきた。
優しくしっとりと濡れた黒い瞳が何かを伝えるように揺れる。
わかっている。
とても想われていること……
重ねるだけの口付けでは歯痒いくらい、自分も同じくらい想っているから。
「不安にさせてすまない」
囁く声が頭の芯をくすぐる。
再び唇が重ねられ、上唇や下唇を挟むように啄ばまれてから、そっと唇が舐められた。
唇に触れた舌の感触に、ぞくりと熱が込み上げ吐息を漏らすと要の舌が分け入ってくる。
くらくらするほど甘く激しく舌が絡み合う。
蕩けてしまいそうになる。
もっともっとと湧き上がる熱情が快感を求めていく。
葵は要の胸元のセーターを握り締め、引き寄せていた。
口付けが深まりそうになった瞬間
ぐいっと、要が体を引く。
「…………これ以上は色々と不味い」
顔を背け要が呟いて、葵は外に碧刃を待たせていることを思い出した。
「そ、そうだね」
一瞬、我を忘れていた。
要が欲しくて仕方なくなっていた。
「待ってるね」
耳まで赤くなっているのがわかるほど顔が熱い。
それを見て、くすっと要が静かに笑う。
「続きを?」
「違うよっ」
「オレはしたいけど、続き……」
悪戯な笑みで要が顔を寄せた。
葵の反応を見て楽しんでいる時の要の顔だ。
「もう、いいから行ってきてっ」
葵は要の胸を押し退ける。
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