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第11話 遺言
葵がスローネで暮らし始めた頃のこと。
覚えのない携帯番号から着信が数度あり、あまりに執拗なので出てみると、懐かしい声が昔の名を呼んだ。
『蒼麻……うちよ藍奈、久しぶりやね、元気やった?』
双子の母親、藍奈の声である。
最後の通話は双子が大学入学を済ませた報告だった。
普通にこなしていれば大学を卒業しているのだが、今は夏、卒業の報告ではないだろう。
「今は西園寺 要で通している」
『そうやったわね、高校生やってるんやなあ?なんや違和感しかあらへんけど』
「それで、その違和感を揶揄う電話なのか?」
高校からの帰り道、スローネに向かうまでの時間で済ませたいところだ。
『あはは、ちゃうちゃう。うちな、癌って言われたんよ』
極めて明るく意表をつく告白を受け、要は足を止める。
「ステージは?」
『流石に言うことがお医者さんみたいやなあ』
明るく笑った藍奈が軽く咳き込んだ。
『ステージIVb、すい臓から始まってリンパに転移しとる』
ステージⅣのすい臓癌でも5年生存率は1.4%と低い。
多発転移となると末期だ。
「双子は知ってるのか?」
『知ってんで。大丈夫や』
何をもって大丈夫と言っているのか、藍奈に関しては些か不安が込み上げる。
『余命は2、3ヶ月って言われてんねんけど、嘘みたいに元気や』
「そうみたいだな」
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