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『黙りこまんといてや。安心して、会いに来いなんて言わへんさかいに。来られたところでうちが困るだけやしな』
空元気には聞こえない藍奈の声に要は幾分安心する。
恐らく、告知はかなり前で、余命宣告を受けたのも最近ではないのだろう。
自分の中である程度全てを受け入れ、先を見越せる状態になったから連絡をしてきている。
『ヒマワリちゃんとはどうなったん?まだストーカー決め込んでるん?ええ加減に距離縮めたらええのに』
「いや、色々あって今は側にいる」
『ほんまに?良かったやん!まだぐずぐずとやらしいストーカーやっとったら、うちは心残りで死んでも死に切れへんかったわ』
ヒマワリは藍奈が日向 葵を向日葵にもじって作った葵のあだ名である。
「彼女の生活は一変したし、覚醒もしている。良かったと言えるかどうか怪しいな」
『何を言うてるん?何がどうあっても側におるのが一番やで。側にいーひんとできることもできひん。あんたがそれ一番わかってんやろう。そやさかいそれでええんや!』
口調を強めた藍奈の言葉はやけに説得力があった。
要はその理由を良く知っている。
『そないな時にあんたにこんなんを頼むのんは、心苦しいんやけど、最期の頼みや思て聞いて欲しい』
「それは数ヶ月後に」
『悠長にしてられへんのやっ』
要の言葉を遮り、藍奈が声を荒げる。
『うちが死んだら分家の中で一気に色々動く。あの子達のプラスになるとは限らへん。特に碧刃は分家のやり方に合わへんのや。ここにおったらあかんくなる』
「鴉攻か……」
『そうや。分家に残るにしても、分家を出るにしても、選択肢をあげたいさかい。今のままだと選択肢もなんもあらへんのや。あの子達の好きにさせたって欲しい』
現首領の鴉攻は、父親の上を行く懐古主義者だ。
一族の在り方を正したいと考えている。
(どこにでもある問題だな)
今更、墓守の血を継いでいないと言葉で訴えたところで、状況は変わらないだろう。
『あの子らの父親になってとは言わへん。せやけど導いたって欲しい。他の誰でもあらへん、あんたに託したいんよ』
それが本当に最期の頼みとなった。
葵が橘詠一に拉致されている最中、藍奈は容態が悪化、病院で亡くなったらしい。
それを聞いたのは、祥吾が分家に連絡を入れた時だった。
藍奈が危惧したように、すでに色々と動き出していた。
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