第1話 説話

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日向 葵(ひなた あおい)はキャンピングカーの中で一人、風土記の書籍を眺める。 ここは滋賀県、琵琶湖北東、天女の説話に記された小さな湖のほとり。 昨夜はここで夜を明かした。 開け放ったキャンピングカーの扉の向こう、湖の岸辺に立つ青年の背中が見える。 スラリと伸びた手足に均整のとれた長身、携帯を耳に当てた西園寺 要(さいおんじ かなめ)が振り返り軽く片手を振った。 昨夜、その腕が体を抱きしめ、その手が肌に触れていたことが、どこか夢だったような感覚に陥る。 一見して高校生くらいにしか思えない外見、端正な顔立ちは遠目でも良く映え、黒曜石のような瞳が印象的、見惚れるほどの美青年。 背中に羽が生えても違和感を与えない、その姿。 彼はその姿のまま、180年以上生き続けている。 始祖は天使、天から地上に遣わされ、天に帰れなくなった者たちの末裔。 そして、葵自身にもその血が流れている。 特殊な能力と共に…… 1200年以上も昔に記された日本最古の羽衣伝説、それと時を同じくして天使え(あまつかえ)の一族は地上に根付いたとされる。 天から使えし者、天使え(あまつかえ)… 始祖となった者たちはそれぞれ特殊能力を有し、人に巣食う闇を祓っていた。 その力が脈々とその血に受け継がれ、要は今もその役目を担っている。 (私も役に立てるといいのだけど)
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