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「深めてどうするんですか?」
「遊んではりますか……」
早速胸の内を悟られて葵は一瞬たじろいだ。
「素朴な、疑問です」
平静を装う葵に鴉攻は小さく鼻で笑った。
「まあ、ええでしょう。そう言うた疑問には後程お答えするとして、条件を飲んで頂くにあたり、その証を見して貰いまひょ」
葵は内心どきりとして、慌てて気持ちを落ち着かせる。
一番厄介な流れがきた。
証、が何を指すのか、それによってかなりヤバい。
単純に胸の『証』を見せるなら、簡単な部類。
誓約書に署名も、あとでどうにでもできる。
碧刃との誓いのキスを見せろ、なんて辺りもセーフ…
(セーフか?要の前でそれはセーフになるのか?命をとられるよりはセーフくらいのレベルだよね)
思った以上に自分の中の妥協点が狭いことに、葵は焦った。
「まずは交渉成立の握手を」
それだけに、鴉攻からの申し出はかなり楽なものに思えてしまった。
鴉攻が縁側から降りてくる。
差し出された鴉攻の手を、葵は握った。
「っいた!」
ぎゅっと握りしめられたとたん、手の平に突き刺すような痛みが走る。
碧刃が立ち上がろうとしたが、それを止めたのが分かった。
葵が顔をしかめても、鴉攻は手を離そうとしない。
「葵殿は一族の総帥となるお方」
更に、握る指に力がこもる。
鴉攻の一つしかない瞳がその執念を垣間見せた。
葵は手を振り払い、手の平を確認する。
針で刺された様な痕がくっきりと残り、血が滲んでいた。
ただの握手ではなくて、これが狙いだったとわかったが遅い。
鴉攻が自分の手の平を舐めていた。
一瞬見えた鴉攻の舌先に滲む赤い血がやけに鮮やかに見えて、葵は込み上げる不快感を噛み締める。
「……能力は、麻痺だけちゃうんや。暗示が」
ボソッと碧刃が呟いた。
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