第14話 抗拒

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第14話 抗拒

鴉攻が自分に向けた手の平が異常に大きく見えた。 「さあ、深う呼吸して気持ちを楽に」 鴉攻の声が脳内で木霊する。 頭を激しく振られたような不快感と、心臓を握られているような息苦しさに葵は目眩を感じた。 自分の意志と反発する得体の知れない支配に、身体中が強張った。 (どうしよ…………思う壺になっちゃう) どうしたら、切り抜けるのかを考えながら、要の手を放してしまった事を心底悔やむ。 今はもう首一つ、指先一つ動かせない。 「こちらに」 向けられていた鴉攻の手の平が誘う様に差し出された。 行きたくない。 一歩でも前に出たくないのに、足が鴉攻の声に反応するのが分かり必死で抗う。 張り裂けそうに痛む胸を手で抑える事もできない。 周りで音が聞こえているのに、それが何なのかも分からない。 見えない何かに雁字搦めにされる恐怖が、自然と涙を溢れさせた。 右足が僅かに地を離れた時、肩に置かれる手を感じた。 「葵…………、信じて」 混沌を打ち砕く様な、透き通るその声。 服越しでも分かる、手の平の冷たさと震えにまだ鴉攻の術中にいることが感じとれた。 「自分の内なる声を聞くんだ」 自分の中、能力(ちから)を使うと言う事だろうか。 暗示を跳ね除ける様な作用を持っていると言う事? 自分の能力(ちから)を信じる事はいまいちできないけれど、要の言葉なら、その声なら、信じられる。 胸の痛みを堪えながら、息を深く吸う。 痛みに唇が震え息を吐くのも躊躇われたが、それを振り切る様に目蓋を閉じた。 (跳ね除ける…………跳ね除ける!屈したりしないっ) ギシギシと軋む様に重たい自分の右腕を持ち上げる。 迷いがある、気がした。 信じられないからなのか、信じる自信もないからなのか。 動揺がチラついて怖気着く。 要に、蒼麻に子どもがいたとしたら、それが碧刃や朱奈だとしたら、自分は冷静に受け入れられるのだろうか。 心臓が破裂しそうなくらいにばくばくと鼓動し、息が乱れた。
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