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この事態、圧倒的に戦力が足りない現状…
唯一、能力で対抗できる戦力は要と和希だが、和希が離脱している今、要のみとなる。
それを痛いほど、思い知らされた。
橘 詠一は未だに消息が知れない。
和希に火傷を負わせ、葵を拉致し監禁、その割に助けに来た要諸共あっさりと逃した。
追手もなく、動きも見せない、狙いも絞り込めないままだ。
まだ何も終わっていない。
「京都には一族の分家があるのです」
祥吾の隣に腰掛けながら篠宮 大和が静かに口を開く。
「樹海の聖域に移り住む際、それに反対し離散した者の子孫たちです」
細いフレームに縁取られた眼鏡を指先で押し上げ、篠宮は眉を寄せた。
伸びた背筋に、無駄がなく切れのある仕草、丁寧で落ち着いた物腰は実直さを感じさせる。
情報屋と呼ばれるほど、多方面の情報収集に長け、高度なハッキング技術を用しているらしい。
今は祥吾の右腕として、スケジュール管理から運転手まで幅広くサポートしている敏腕秘書だ。
年齢不詳で謎が多い人物だが、表情の変化が乏しい点は要に似ていて葵は親近感を抱いてしまう。
「分家は首領を筆頭に能力者が20人弱、一族内の結束は固く、余所者が入り込むのは難しいですね」
極めて無表情で篠宮が告げる。
「まあ、俺たち余所者だしな」
祥吾はそう言って笑った。
(分家ってことはコッチが本家?だけど、余所者?)
離散したと言うフレーズからも、会話の流れからも、今回のスカウトは難問らしい。
本家と分家の仲が悪いらしいことは良く分かった。
「あの、要くんは行くんですか?」
スカウトとなると、要はなくてはならない立場に思える。
気になって聞いてみたが、祥吾と満琉が気まずそうに顔を見合わせた。
「要は行けないかな」
祥吾が微妙な言い回しをする。
行かない、ではなく『行けない』。
「今の要は、葵ちゃんと別行動はないわね。片時も離れたくないって感じだもの」
満琉が即座に台詞を割り込ませた、ように見えた。
隠したい何かがあるかのように。
「今朝も渋々出かけただろ」
「もぉ、ラブラブね」
二人のやり取りがすでに誤魔化すための何かに見えてきて、葵はそれ以上の追求をやめた。
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