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第3話 治癒
「……待った」
和希が掠れた声を上げた。
包帯に包まれた和希の手が葵の手首を掴む。
和希に特殊能力で治癒を行なって4日目。
ベットの横に座っての、深呼吸から始まる。
手首のスマートウォッチで心拍をチェックし、瞳を閉じる。
呼吸を整え、自身の鼓動に耳を澄ます。
そうしているうちに感覚がクリアになっていく。
治癒能力は、体内の細胞を活性化させることで傷が癒える速度を上げるのだと言う。
ターン・オーバーの促進、そこに必要となる自己再生能力を引き出せない場合、術者のエネルギーが消費されてしまう。
だから、慎重に感覚を研ぎ澄ます。
細胞の奥底、血の中に宿る能力を呼び起こすように…
そして、手の平に熱を感じてから、和希の喉元に手の平をかざす。
その手を和希に掴まれたのだ。
弱々しい握力に葵は息を飲んだ。
「葵、ちょい待ち」
久しぶりに聞いた和希の声は、紙が引き裂かれるような掠れ声で、無理矢理喉の奥から絞り出しているのがわかった。
「手を…先に治して」
相良 和希は橘詠一により、10%以上の広範囲に渡るⅢ度熱傷を負った。
昨日まで気管挿管をしていたほどだ。
治癒能力は、危うく儚い幻のようだ。
外傷が目に見えているのならその効果も手応えがあるのだが、内部となると実感がない。
気管挿管を外せたのも治癒効果なのかどうかも怪しい。
それだけに、和希も目で見た効果を知りたいのかもしれない。
和希の気持ちがわかるだけに、葵は返答に迷う。
「我儘言うな」
背後から要が言葉を割り込ませた。
「お前の気道熱傷は肺近くまで達している。まずはそっちだ」
「……声が出るし、平気だって」
うんざりした顔で和希が声を絞り出す。
「ごめんね、思ったように治せなくて」
もっと能力を制御できていれば、何度もそう思う。
酷く歯痒い。
「あ……、そうじゃ、なくて」
俯く葵に和希がギョッとして、手を離した。
要の手が葵の肩に乗せられる。
「和希、治癒はオレが葵に指示を出してる。そのやり方に納得できないなら、病院に戻れ」
要の冷たく厳しい口調が和希に向けられた。
「わかった……」
渋々、和希が納得して見せる。
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