第4話 葛藤

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その日、ふと夜更けに眼が覚めた。 いつも背中にある温もりがない。 時計を見ると、日付が変わろうとしている。 (和希くんのところかな……) 手を伸ばして掴んだシャツをとりあえず羽織った。 大きさからして要のシャツだ。 昼間は和希に厳しく接していたが、要は実際、とても良く和希を診ている。 夜更けにベットを抜け出していることが増えた。 喉が渇いてキッチンへと向かうと、ガチャリと気遣わしげに閉められるドアの音がした。 「おかえり」 キッチンの横を通る要に声をかけると、静かな微笑みが返ってくる。 「ただいま……」 葵の元へ来て、腰に手を当てるとそっと体を寄せてきた。 何となく元気がない。 「どうかした?」 尋ねると要は葵の頬を手の平で包み込み、額に額を合わせてきた。 ゆっくりと閉じられる要の目蓋を眺める。 「……京都の件、聞いた?」 「うん……」 祥吾と満琉が隠そうとした『要が京都に行けない』理由が、何なのか。 多分、その件だ。 祥吾ともその件で揉めているのだろう。 「楓ちゃんのお墓参りにも行くって満琉さんから聞いたよ」 「葵も行きたい?」 「でも、今は行けないよ」 京都に行くとなると、要と離れて数日過ごすことになるし、和希の治癒も中断される。 背中に腕を回され、要に抱き締められる。 何も言わない要に葛藤を感じた。 そしてこの翌日から、息つく間もないような祥吾のアプローチが始まったのだ。
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