マグマの上でマフラーにぶら下がった日のこと

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 ある活火山の火口で。  浴衣姿の俺は、足の下七八メートルほどの辺りで煮えたぎるマグマの上で、宙ぶらりんになっていた。  両手でつかんでいるのは、ラクダ色の、味もそっけもないマフラーだ。切り立った崖の側面にへばりつくようにしながら、ただこの、崖の上から垂らされたマフラーだけがロープ代わりに、文字通り命綱となって俺を支えている。  俺から見上げると、崖の端から頭だけ出しているのが、中学で同級生の御徒町(おかちまち)雨子(あめこ)。マフラーの主だ。  御徒町は全くの無表情で、俺を見下ろしている。崖の上でぺたりと地面にうつ伏せになっているのだろう、傍から見たらひどくシュールな絵面だろうが、その御徒町の体と地面の摩擦力のお陰で俺は火口に落ちないで済んでいるのだ。  マフラーは御徒町の首に巻かれ、その余りを二メートルほどぶら下げている。その先端に俺がつかまっているので、ロングマフラーってやつだろう、かなり長い。  御徒町の首は、本人が首とマフラーの間に手を差し入れているために絞まっていないが、これで失神でもされたら二人とも真っ逆さまだ。  ただもちろん、こんな状態がいつまでもは続かない。  俺の腰にだらしなく巻き付いていた帯が解けて落ちて、マグマに触れて嫌な音を立てて蒸発する。  何を考えているのか、無言でただ俺を見下ろしてくる御徒町を見上げながら、俺は今ここに至るまでの過程を思い出していた。
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