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苦しみは僕だけに
「はい」
震える彼女にホットのミルクティーを渡す。木枯らしが吹く公園で、薄手のコートに身を包み、僕と彼女は並んでベンチに座った。
僕の好きな人は、きれいに泣く姿が印象的な、芯の強い女性だった。
学生時代、ちょっとしたきっかけで仲良くなり、二人で話すことも増えていった。そうしていくうちに、彼女は自分の弱さをわかっているから強くいられるということを知った。次第に彼女は僕の前で強がることも無くなっていった。
今もまた、彼女は僕の前で言葉を選びながら、涙が堰をこえないよう視線を泳がせている。ミルクティーはまだ温かいはずなのに、彼女の細い指は小刻みに震えていた。
「パンダになっても知らないぞ」
そう、結婚式で君はたくさん泣くだろう。それを見て、僕以外の同級生が初めて君の美しさを知る。それに僕は耐えられるだろうか。
「おめでとう」
きっと、当日は言えないから。
『君を愛している』
この先もずっと口にすることはないだろう。
二人が逃したタイミングを嘲笑うように風が吹く。ぎこちなく引きつる口角が、どうか彼女との思い出を汚しませんように。
来月、君は結婚する。
完
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